エピソード006「罪の意識を感じるわ」梨花ちゃんと慎吾くんとサツキ先輩と先輩の会話

「慎吾くん……ちょっと聞いて欲しいの、話があるんだ」


「え? 梨花ちゃん? そんな改まって、どうしたの?」


「あのね」


「うん?」


「こないの」


「え?」


「もう2週間遅れてるの」


「……え? 何が?」


「……」


「梨花ちゃん? どういうこと?」


「もう2週間も予定日を過ぎてるのに生理こないの!」


「えーーーーー! ……ま、まじで?」


「うん、まじで」


「それって……妊娠?」


「もー……その単語はっきり言わないでよ、不安で不安でさ」


「あ、ご、ごめん……」


「……」


「……」


「慎吾くん」


「ん?」


「どうしよう」


「どうしようたって……えー、だって……おれたちまだ高校生じゃん」


「でも私16過ぎてるけど慎吾くんも来年18じゃん、来年は結婚できるよ」


「……け、結婚? で、でも……」


「え……まさか……」


「え? な、なに?」


「まさか慎吾くん???」


「……え? ……あ! いや、堕ろせなんてそんな」


「もーーーーー!!! そういう単語口にしないでってばー! 傷つくじゃん」


「あ、ご、ごめん」


「慎吾くん、考えておいて」


「え? ……何を」


「もーーー!!! 私帰る! じゃーね!」


「あ、梨花ちゃん!!」





   ●





「よおサツキ! 待たせたか?」


「ううん……」


「そっか、で、こんなとこに呼び出して話ってなんだ?」


「あの……」


「ん?」


「どうやらね……」


「ん? もったいぶってんじゃねー、なんだよ?」


「うん、わかった。言うね」


「ったく~なんなんだよ」


「どうやら、出来ちゃったみたいなんだ」


「はぁ?」


「赤ちゃん」


「はぁ? まじか?」


「……うん、もう2週間遅れてるの、女の勘でそう感じるのよ」


「……って、まじかよ……」


「……うん」


「ガキか……」


「ねぇ」


「ん?」


「どうしよう?」


「……どうしようたって、そりゃおめー……なんつーかさ……」


「いきなりこんな事言われても困るよね、ごめんね」


「ばか、おめーが悪いわけじゃねーだろ」


「あ、私もう行かなきゃ」


「……」


「またあとで、話そう」


「お、おう」





   ●





「梨花ちゃんどうだった?」


「慎吾くん信じたみたいです! サツキ先輩の方は?」


「う~ん、多分信じたと思うよ」


「あはははは、悪女ですね~先輩」


「人の事言える? だいたい言い出しっぺは梨花ちゃんなんだから」


「だって、せっかくのエイプリルフールなんだし、何か面白いことしないと~」


「ふふふ、そうね……でもちょびっと不安かな?」


「不安?」


「うん、だって、もし『堕ろしてくれ』なんて言われたらさ~」


「私、もし慎吾くんがそんな事言ったら別れちゃいます」


「そうなの?」


「もちろんですよ、サツキ先輩は?」


「う~ん、どうだろ」


「大丈夫です! 先輩あー見えてすんごい優しいから」


「だとイイけど」


「なんて言ってくるか楽しみですね♪」


「も~なんだか後ろめたいなぁ、罪の意識を感じるわ」


「いいんです! 4月バカって言うでしょ、あとで笑い話になりますってば」


「そうね、ふふふ」





   ●





「せ、せ、せ、せんぱ~~~いぃぃ」


「お? 慎吾! なんだてめー情けない面して梨花ちゃんと喧嘩でもしたか?」


「いえ、もっと大変な事に」


「ん? どしたんだよ」


「梨花ちゃん……妊娠したみたいなんです」


「ぷっ!」


「あーひでぇ~な先輩! 笑い事じゃないんですよ~」


「ちげーよ! これではっきりしたぜ! そんなこっちゃねーかとウスウス感づいてはいたんだけどよ」


「え?」


「ばーか、おめえ今日は何日か言ってみろ」


「えっと、4月1日……ああああ! エイプリルフール?」


「おうよ!」


「ってことは、妊娠って嘘?」


「たりめーよ! サツキと梨花ちゃんが同時に妊娠するわけねー! 二人してつるんでるんだぜ」


「あーーーーよかったーーーー! もう俺どうしたらいいかって真剣に悩んじゃって」


「うはははは、けどよ、こっちも何かお返ししてーよな」


「お返し? いやもう俺は安心して気が抜けちゃって~」


「ばーか、おい、俺にいい考えがある」


「え?」





   ●





「慎吾くん……考えてくれた?」


「え? ……う、うん」


「どうしよう」


「あ、あの、俺も、責任あるから、その……」


「その? なーに?」


「学校やめて働くよ」


「え?」


「さっき退学届出してきたんだ。俺、梨花ちゃんと赤ん坊のために今日から結婚資金貯める」


「ま、まじで? ……ほんと?」


「う、うん……ほ、ほ、ほほほ、ほんと」


「きゃぁ~嬉しい~~~」


「え? ええーーー?!」


「ありがとう慎吾くん! じゃ~私も! もう学校やめて何か胎教にいいこと始めるよ!」


「ええええええ? だって……えええええ? そんなぁ?」


「ん? なーに? 二人で立派に育てようね」


「……は、話が違う」


「はぁ?」


「え、いや、えーと……」


「慎吾くんありがとう! 見直したわ、前よりもっとも~っと大好きになっちゃった」


「……」


「お礼にチュ!」


「ぐあぁぁぁぁ」





   ●





「よお! サツキ」


「うん」


「喜べ! 俺は決めたぞ」


「え? 何を?」


「おめーと結婚する! んでもって学校やめて就職する」


「うそ……ほんとに?」


「おうよ! たりめーだろ、おめーの腹ん中には俺のガキがいるんだぜ。オヤジとしては当然だろーよ」


「で、でも……」


「んー??? 何か問題でもあるのかぁ?(うひひひひ)」


「……」


「よお、サツキ? なんとか言えよ(ざまーみろ! どう言い返す気だよ)」


「ねぇ!」


「おう! なんだぁ?」


「ありがとーーー、超嬉しい、私頑張って元気な赤ちゃん産むね!」


「へ?」


「ほら、もう貰ってきたの、これ」


「ん? なんだそれ?」


「母子手帳だよ。妊娠したら貰えるんだよ」


「はぁぁぁ???」


「そこまで思ってくれてるなんて、私って世界一の幸せ者だ、ほんとにありがとう……グスッ」


「ば、ばか……まじか……な、泣くなよ」


「だって、嬉しいんだもん」


「うぐ……」





   ●





「きゃはははははは」


「あははははははは」


「ほーんと先輩の言った通りの反応でびっくりしちゃった!」


「でしょー、あいつら頭悪いけどエイプリルフールに気づかないほどバカじゃないわよ」


「あはははは、ですよね~」


「でも、本当のときにあんな風に言われたら素敵だな」


「慎吾くんも演技だとはわかっていたけど、なんだか頼もしく見えちゃいました」


「ふふふ、ごちそうさま」


「でも母子手帳なんてどこから手に入れたんですか?」


「あー、いとこのお姉さんに借りたのよ。名前のとこは指で隠して見せてやったの」


「きゃははは、先輩、やっぱ私よりもワルだー」


「あはははは、そうかもー」




エピソード006「罪の意識を感じるわ」梨花ちゃんと慎吾くんとサツキ先輩と先輩の会話 END

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短編集『エンベロープ・ジェネレーション』 白鷹いず @whitefalcon

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