【KAC20247】折ったものは?

八月森

ある高校生男子共のしょうもないやり取り2

「――色気のある男になりたい」


「……急になに言ってんだ、江口?」


 放課後。

 幽霊部員だらけでほとんどオレたち二人の溜まり場と化している地学部の部室。

 そこで長机の上に並べられた色折り紙を折りながら江口が口走ったのは、そんな一言だった。

 オレは非常にしょうもない予感を覚えながら、折り紙を折る手を止めずに、一応どういうことかと聞き返す。(手は忙しいが頭は暇だったのだ)


「考えてみろよ高橋。俺たちもう高校二年なんだぜ?」


「まだ高校二年とも言えるがな」


 実際世間的に見れば高校二年なんてまだまだガキだろう。


「なにを言う。そろそろ下級生には出せない大人の色気みたいなのが出てもいい頃合いだろう?」


「つまり本音は?」


「モ”テ”た”い!!」


 さあ予想通りしょうもない話だったぞ。

 ていうかワン〇の「生ぎたい!」みたいに言うな。ファンに怒られるぞ。


「モテたいんだよ高橋ぃ! なぁ、俺なにがダメなんだ!? 顔か!? 性格か!?」


「顔も性格も十人並みだし、問題はがっつきすぎなところじゃないか?」


「正論パンチやめて!?」


 正論なのは自覚してるのか。


「くぅ、俺だってイケメンじゃないのは承知しているさ! ならあとは大人の色気を身につけるしかないだろ!」


「他にも方法あるだろ」


「というわけでその方法を学ぶべく漫研からこいつを借りてきた!」


 そう言って江口が取り出したのは、とある奇妙な冒険を繰り出す一族の漫画……


「これを読んで俺は大人の色気を学んだ! 『ギャング・スター』に憧れるようになったのだ!」


 そういって右手でシャツをはだけ例のポーズをとる江口。


「どうだ!? 色気出たか!?」


「ポーズだけ真似てもダメだろ」


「あぁぁんまぁぁりだぁぁ!」


 5部かと思ったら2部か。個人的には2部が一番好きだが。


「大体、そういうの勉強するなら漫画よりファッション誌のほうがいいんじゃないのか?」


「あんなイケメンが着飾ってるの見ただけで色気が身につくわけねぇだろ! いいかげんにしろ!」


 なんでオレは今怒られているんだ。


「いいからそろそろ手を動かせ。明日までに折り切らなきゃいけないんだろ」


「あぁ……ちくしょう。こんなところで折り紙折ってる場合じゃないのに。なんで千羽鶴なんか……」


「仕方ないだろ。顧問に、「怪我した部長に日ごろお世話になってるお礼として千羽鶴折ってあげて」と頼まれたんだから」


「あの部長、幽霊部員だから普段世話になんてなってないのに……」


「まぁ、それはそうなんだけどな」


「しかも俺らが行かなくても、色っぽい彼女が見舞いに来てるって話だし……」


「それが羨ましくて色気とか言い出したのか」


「あぁ……色っぽいお姉さんの彼女作って罵倒されたいなぁ……」


「主旨変わってるぞドM」


 そんなしょうもない話をしつつオレたちは手を動かし色折り紙を折っていたのだが……


「……? 江口、お前の折ったそれ、なんだ?」


 江口が折ったものは明らかに鶴の形をしていなかった。

 赤い折り紙で鳥のようなもの。青い折り紙で龍のようなもの。白い折り紙で虎のようなもの。黒い折り紙で亀のようなものが器用に折られており、どこかで見たようなそれらは……


「四聖獣」


「四聖獣!?」


 朱雀、青龍、白虎、玄武!?


「すげーなお前!? これを披露したほうがモテるんじゃないのか?」


「え、マジで? いやー、そうかー。モテちゃうかー?」


「おう、モテるモテる。まぁ、マスコット扱いで一過性のもんになりそうだが」


「そんな……永続的なモテ要素はやってこないのか……?」


「難しいだろうなー。そんなことよりほれ、早く鶴を折れ」


「ちくしょう」


 そんな話をダラダラしつつ、二人で鶴を折り続けていく。

 こうして、オレたちは今日もこの部室で生産性のないやり取りを繰り返すのだった。

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