エピローグ

「お兄さん、絶対その眼鏡スカウターが壊れてます! 貸してください!」


 ほぼ、奪い取られるようにナツちゃんに眼鏡スカウターを取られ、いろいろ観察される。


「このレンズに数字が表情されるんですよね? 数字の上限とかってあるんですか?」

「え? いやまああるよ……普通はどれだけ好意を持ってても100が最大だと思って作ったやつで……」

「その言い方だと、100以上になると?」

「うん、一応理論上は確か……」


 表示メモリの理論値を計算すると……


「約922京ぐらい表示出来るようにはなってるよ」

「……なるほど」


 しばらく沈黙した後にナツちゃんが小さくと呟く。


「その方がお兄さんの事を好きだと過程するなら、もしかしたら好意点がオーバフローしてるとかって考えられませんか?」


 オーバフロー。

 めんどくさい話なので細かい事省くと、プログラムの仕様の1つで規定の上限数を超えた数字を計算した場合、その答えが予期せぬ値として出てくる減少である。

 オーバフローの症状に確か超えた数字が正負の判定に入りプラスがマイナスというのがある。


「つまり……総合好意点が922京点を超えてマイナスなってしまった……って事?」

「はい、そう言うのも考えられると思います」


 確かにそんな数値を想定していなかったとはいえ、フユモトさんがそこまで僕の事を好きだって要素があっただろうか?


「その彼女さんの名前、聞いても良いですか?」


 ナツちゃんが確認するように尋ねてくる。

 そういえばフユモトさんの名前は伝えてなかった。


「う、うん……フユモト……下の名前がアキ」

「あ」


 そこまで言うとナツちゃんが声を上げた。


「確定しました。お兄さん、早く自分の世界に戻ってください」

「え?」


 急にナツちゃんは急かしてくる。


「オトメちゃんは私が見ときます。戻ったらお兄さんはフユモトさんに告白してください」

「え、ええ!?」


 いきなりぐいぐいと押してくるナツちゃん。


「い、いや、もしナツちゃんが言っていたプログラム上の仕様だったとしても、告白して必ずしも成功するわけ……」

「研究や実験だって一発で成功するわけない」


 ナツちゃんが真っ直ぐ僕を見る。


「失敗を重ねながら結果を良くしていく。お兄さんもいくら天才って言われていたって沢山失敗をしてきましたよね?」

「それは……そうだけど……」

「なら、それと一緒です。失敗を恐れない探求心が、きっと私達のDNAにはあるんだと思います」


 失敗を恐れない探求心。

 ……そうか。

 そういえば、僕は好感度ばかり見ていたけど、自分から行動する事はなかった。

 それはきっと、失敗を恐れていたからだ。

 今までやってきた開発だって、最初から上手くいった訳ではない。

 何回も失敗成功を繰り返し、人前に見せてきた。

 皆が呼ぶ天才めがね君の過程には、女の子にモテたいという野心の元に幾度もの失敗を重ね、人類を救う功績が積み上がっていた。

 そうだ。

 人類を救うのが僕の到達点ではない。

 なら、告白してふられる失敗なんていつもの事ではないのか。


「ワンワンワン!」


 今まで大人しかったオトメが急に吠え始め駆け出して行く。


「うおおおおおおオトメええええええ! 何処に行っていたんだああああああ!」

「ワン!」


 オトメが向かった先には坊主頭の少し強面の泣いている男性がいた。

 恐らく飼い主だと思われる。

 彼等は抱き合い再会を果たしていた。


「これで解決ですね」


 一通り見ていたナツちゃんが優しい笑みを見せる。僕もそれに頷く。


「ありがとうナツちゃん! 君に会えて本当に良かった! 僕は技術者としての根本的な心構えを忘れていたよ。今なら勇気を持って言えそうな気がするよ!」


 別の宇宙の僕と同じDNAのナツちゃんに、僕は心からのお礼を言う。

 それにナツちゃんも頷いてくれる。


「頑張ってください! 絶対成功するって私が保証しますよ! おじ……お兄さん!」



〜〜



 僕は急いでテンガロンさんの元へ帰還し、お世話になった彼にもお礼を言う。

 その最中、多元宇宙の支配者と名乗る変な格好をした子が別空間ポータルから現れたりもしたが、その空間にいた警備や弁護士の人に取り押さえられていたので、ふすまを閉めて何事もなく終わった。

 テンガロンさんに別れの挨拶をし、僕は50前の自室へ帰還した。



〜〜



「ハルツギ先輩! 納得いきません!」


 出入り口のドアからフユモトさんの泣き声とノック音が聞こえる。

 僕は迷う事なく扉を開いた。


「!?」


 扉を開けて対面すると、フユモトさんと目が合う。


「や、やあ……こんにちは」


 そんな事しか言えなかったのだが、


「えっ!?」


 フユモトさんは僕に抱きついてきた。

 無論刺された訳ではない。

 彼女の体温と存在を身体で感じた。


「もう! 早く出て下さい! 本当に心配したのですから!」

「ご、ごめん!」


 どうしよう……緊張してきた。

 ナツちゃんと約束したんだ。

 タイミングとか考えている場合ではない。

 でも、いざ言おうと思うと喉の奥に支えて……それに心臓の鼓動がうるさくなってきた……


 ……落ち着け。

 こういう時はいつも通り冷静になるんだ。

 いつもの実験研究と同じ。

 失敗を恐れるな。

 勇気出す、自分の中のルールを作れ。


「……」



 僕……天才めがね君こと、ハルツギは三分以内にやらなければならないことがある。


 それは、フユモトさんに昔から好きだと。

 付き合ってほしいと。

 素直に気持ちを伝えることだ。







      KAC2024シリーズ

       ー END ー

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天才めがね君 バンブー @bamboo

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