夕焼けの公園。

 僕とナツちゃんはベンチに座り、オトメは足元で横になった。


「それじゃあ、お兄さんは自分を好いてくれる女性を探す為にこことは違う並行世界から来て、更にタイムマシンで50年前から来たと」

「う、うん……」

「更にDNA結果から私がお兄さんの子孫にあたるかもしれない」

「信じてくれないと思うけど……」

「私は信じますよ。そう言うと少し不思議な話、好きなので」

「あ、ありがとう。後、このオトメちゃんって子を飼い主に預けたくて」

「それなら、近くの動物病院に預けた方が良いかもしれませんね。道、後で教えるので、今はピザマン食べて休憩しましょう」

「ありがとう!」


 ピザマンを頬張りながら無表情なナツちゃんはいろいろ理解し段取りも考えてくれて本当に助かった。僕ももらったピザマンを有り難く食べさせてもらい思わず呟いてしまう。


「ああ……50年後にもピザマンがあって良かった」

「へー、寧ろ50年前もピザマンがあったんですね」

「あーそう言われると確かに……でもコンビニとかが少なくなってたからさ……もしかしたら今より希少かもしれない」

「そうなんですか」

「ほら、バッファローが何もかも破壊してくるよね? アレの影響で人間の居住区が首都圏に集中しちゃってるからさ」


 ナツちゃんを見ると、ピザマンを食べる手を止める。


「お兄さんの世界ってバッファローが日本にいるんですか?」


 当然の事を質問されるが、そうだ……僕とナツちゃんはそもそも別の宇宙の人間なんだ。あまりにも親近感が湧いてしまったから全て前提が一緒のように話してしまった。


「そうなんだよ。全国の森や草原に生息していて特に地方とかだと、轢かれる人が多いんだよね」

「……へー」

「地方はまだ生身のバッファローだから猟銃とかで対処できるんだけどさ、都心部になると機械ゴミを漁って進化したバッファローロボットが本当に強くて……」

「ちょっと待って」


 ナツちゃんは静止し、ピザマンを飲み込んで僕を見つめる。


「バッファローロボットって何ですか? 勝手に機械化したの? 誰かが作ったんじゃなくて?」

「いやいや! 何でバッファローのロボットなんか作らなきゃいけないの! 勝手に進化しちゃってさ、僕も職業柄そいつ等の処理もしてたんだよね……でも、未知の機械パーツが勝手に生成されていくから、それの解析はやりがいあったよね。あ、今回のタイムマシンとか別空間ポータルの部品もそれを使ってるから、僕としてはバッファローロボットはとても便利な実験材料では……」


 はっ! っと我に返った。

 思わず饒舌になってしまい、中学生の女の子に話す内容では無くなっていた。


「ごめん、ナツちゃん。別世界の過去の話だから余計混乱させたかもしれない……」

「いいえ、寧ろ私そう言う話し好きです! 他にもありますか! お兄さんの世界の常識は!」


 彼女を見ると目を輝かせていた!

 やっぱり僕のDNAが流れている事がなんとなくわかった。

 本当に、一番最初に話しかけてくれたのがこちらの事情を理解してくれるナツちゃんで良かった。


「えっと……そうだ。ささくれってこの世界でも重傷化するの?」

「何ですかそれ! ささくれで重傷化ってギャグですか!」


 僕達は互いの世界の相違点を話し合い有意義な時間を過ごし打ち解けあった。

 フユモトさん以外でこんなに話しやすい女性に巡り会えるなんて……

 まあ、子孫だから世界は違えど同じ物に興味が出やすいのかもしれない。

 僕は一人っ子だったけど、妹とかがいたらこんな感じだったのだろうかとか思いふける。


「それで、本題なんだけどお兄さん。彼女候補は見つかりました?」

「ゴホッ!?」


 思わずむせ返ってしまった。


「いや……まだここに来たばかりだからさ……」

「そうか……見つかるといいね」


 たまたまこの世界に来てしまったが、果たして見つけられるのだろうか……

 そもそも寝泊まりはどうしよう。

 オトメちゃんを飼い主に返したら一旦帰るのもありだろうか。

 ……いや、帰るとフユモトさんに殺されるかもしれない。

 テンガロンさんの家に少し寝泊まりさせてもらっても良いかな?

 後でお願いしてみよう。


「でも、何でお兄さんは並行世界とタイムトラベルをして来たのですか?」


 思考を巡らせているとナツちゃんが聞いてくる。


「お兄さん……別に顔が良くは無いけど悪い訳でもないし、話してて面白いし」


 ……顔の事は置いておいて、


「話が面白いって言ってくれたのは嬉しいよ。ありがとう。でも、それはナツちゃんと僕の趣味趣向が似通ってからだと思うよ。ほら、同じDNA配列を持ってる行動が似通うっていう研究結果あるからさ……」

「別に、ここまで離れた所に来なくても……お兄さんが元いた世界にも、同じような人はいると思うんですけど……」


 ナツちゃんがそう言った時、フユモトさんの顔がどうしても思い浮かんでしまった。


「思い当たる人、いるんですね?」

「え!? な、何で!?」

「いや、思い当たる人がいますって顔で悩んでましたよ。お兄さん表情わかりやすいから」


 これも血の繋がりなのか……

 隠す必要もないしナツちゃんなら話せそうな気がするので、自分の思っていた事を思い切って話した。


「……実は、話が合うし凄く気を使ってくれる女性がいるんだ。正直、僕はその人の事が好きだった……」

「ほうほう!」


 ナツちゃんがぐいっと近づいてくる。

 少し距離を取り話を続ける。


「けど、この眼鏡スカウターを作って、彼女の好感度を調べたら……マイナス500京点っていう……好意どころか僕に対して殺意と憎悪をドチャクソ募らせていたんだ……」


 涙を抑えながら気持ちも抑えて話すと、ナツちゃんが質問してくれる。


「何か変な事をやったんですか?」

「どうだろう……ただ、研究に集中する僕のスケジュール管理とかをしてくれたから、仕事量を増やしていたかもしれない」

「もっとその人と、何があったか教えてもらって良いですか?」


 そう言われ、僕はフユモトさんとのエピソードを思い出しながら箇条書きみたいにポロポロと話していく。

 確か、一緒に外食したり……

 気分転換で一緒に映画を観に行ったり……

 健康に気遣ってフユモトさんがお弁当を作って来てくれたり……

 2人で夜中に研究でこっそりと誕生日回を開いたり……

 2人で研究室に持ち込んだゲームで遊んだり……

 そう言えば、もし地球が救えたら2人で今度旅行に行きたいって彼女が話をしていたような……

 いろいろ、彼女との思い出を振り返って行くと突然ナツちゃんが立ち上がった。


「ナツちゃん?」


 僕が尋ねても彼女は無視して夕日に向かって叫び出す。


「それ絶対好きなやつだああああああ!」


 公園中によく通った女子中学生の声が木霊した。

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