「なるほどな! 博士は嫁探しの為に別空間ポータルを作って、タイムマシンも作っちゃったと! いやー素晴らしい、大天才じゃないですか! こんな役立つ発明ばっかりして、人間国宝っすよ!」


 ふすまを閉めて、テンガロン冒険家の部族からもらったというお茶をもらい30分ほど一服させてもらう。


「そんなことありませんよ……太陽フレアのバリアを作った時とかも、数ヶ月世界に色が無くなってしまって……防衛省にクレームが殺到したみたいですし……僕は人様に迷惑かけてばっかりで……」

「それって丁度50年前の世界に色が無くなった日って奴っすよね! 映画にもなったんすよ! 今度教科書にも載るって世界規模の大事件じゃないっすか! それにも関わってたんすね! 流石博士! よ! 日本一!」


 何でも褒めてくれるのだけれど、あの当日クレームだらけの光遮断アンチエイジングバリアという僕の中で黒歴史確定の失敗作が50年後に教科書に載って映画にされてるなんてちょっと嫌だな……そろそろ僕のことから話をそらさせて貰おう。


「そう言えば、このワンちゃん……」

「可愛いでしょ! 最近出来た僕の仲間なんですよ! このふすまの奥の世界で冒険してた時にね! 森の中でこの子が彷徨っていたのを餌付けしたら懐いちゃって! ベスって名前にしたんすよ! かっこいいでしょ!」

「ワン!」


 ふすまの奥と言うことは、このワンちゃんは並行世界から来た迷い犬ってことか、毛並みも良いから野良犬ではなさそう。


「ん?」

 

 首元に何か光った。

 恐らく首輪?

 近寄って見てみるとやはり首輪だ。

 毛の中に紛れ込んでいるので掻き分けてより見てみる。


「オトメ……って名前みたいですよ。この子」

「ベス!? お前名前あったのか! しかもメス!?」

「ワン!」


 眼鏡スカウターを起動し、このオトメちゃんを調べると、所々この世界に存在しない粒子や物質が毛に纏わりついてる。


「この子はどれぐらい最近に拾ったんですか?」

「そうっすね。1週間前ぐらいっす」

「ってことは、他の世界の飼い主さんが探してるかもしれません。この子を元の世界に返しても良いですか?」

「ええもちろん! すまんなベス……全然気づいてやれなくて……」

「ワンワン」


 オトメちゃんの体を解析し、2時間程で何処の多元宇宙から来たのかおおよそ見当がついた。


「場所がわかったとして、そこへ行く方法ってあるんすか?」

「はい、この別空間ポータルは座標指定出来るようにしてあるので」

「ま、まままマジすか!?」

「……そっか、僕しかやり方わからないのか……後で説明書を作っておきますから、テンガロンさんも今後自由に使ってください」

「貴方は神か!」


 ふすまをガタガタさせつつ開くと、そこは建物通しの隙間、目の前には大通りが見える。


「ワンワン!」


 開いた瞬間、体についていたバッファローツノゼミを数匹撒き散らしながらオトメは駆け出していく。

 僕も心配なので追いかけることにした。


「テンガロンさん。ここ開けといてもらって良いですか? あと誰も入って来ないようにしてもらえれば」

「了解っす!」


 敬礼を背中で受けつつ、僕はオトメちゃんの後を追った。



〜〜



「ぜぇ……ぜぇ……待ってよ……オトメちゃん……」


 そう言えば、3週間まともに食事をとってなかった。走るのなんて大の苦手。

 滝のように出る汗を拭い、巨体の割に速く走れるオトメちゃんが寧ろ僕の事を待ってるしまつ。


「ごめん……お腹が空いて……力が出ない……」

「あの……」


 膝に手をついていると、目の前から声をかけられる。

 視線を上げると眼鏡をかけた恐らく女子……中学生だった。


「お腹が空いてるんですか?」

「え? あ、いや……」

「顔に水をかけられた時みたいなこと言ってましたよね? ピザマンありますけど、いります?」


 女の子はコンビニ袋から湯気が立つ白いピザマンを差し向けてくる。

 無表情だけど、なんて優しい子なんだ。


「……え?」


 眼鏡スカウターを起動したまんまだった。この子の情報が数字化されると、驚いた事にDNA情報が僕とかなり近い。


「え、えっと! 君はいったい?」

「……?」


 もしかしたら並行世界の僕である可能性が過ったが、そう言えば先に50年先の未来に来ていたからそれはあり得ない。

 つまり……


「あ、あの! 僕の名前はハルツギと言います! 実はここより過去から来た並行世界の……」


 話せば話す程訳がわからなくなるけど、どう伝えれば良いのか……


「過去の並行世界から来た……そして私と同じ苗字……」

「やっぱり……同じ苗字なんだ」


 互いに復唱し合う。

 女の子は僕と苗字が同じだと言う。

 やっぱりそうだ、彼女は別世界だけど恐らく……僕の子孫だ。


「ハルツギ……ナツって言います」


 そう言うと、ナツちゃんは軽く会釈した。

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