序
2DKの家に帰りノートに頭の中の情報を書いていく。
まずは、この世界に僕へ好意を持つ女性はいるのか?
これは答えが出ている。
僕へのファンレターも来ていないし、恐らく地球を救った功績もお偉いさんの手柄として報道される思う。
外国に行くという手もあるけど、文化の違いとかで喧嘩が起こりそうだから怖くて無理だ。
となると別世界という手段が出てくる。
「
〜〜
「できた……」
2週間ぐらいの突貫作業で2DKの内の1部屋を使って
ふすまを開ける角度と速度で行きたところも指定出来るようにした。
試しに開けてみると、
「ンモオオオオォォォ!!」
全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れがこちらに向かってきたのでふすまを閉めた。
完成である。
一応簡単に開かないように、住み始めた時から貼ってあった御札を貼って開かないようにしておけばいいや。
これで、並行世界に行けるようになった。
「……」
僕はふと疑問に思った。
多元宇宙を渡り歩けるとしても、もしかしたら人類がいない可能性や、価値観の違う世界ばかりだとしたら外国に行くのと変わらないのではなかろうか。
恐らく、似ている地球だったとして少しづつ違うかもしれない。
例えばだ。
ささくれは感染症の原因になる重い症状とされているが、違う地球では深爪が重傷扱いされている可能性もある。
「一応……タイムマシンも作っておこうかな」
並行世界のような横方向だけ移動できる事よりも、時間軸ごと縦に移動できる手段があれば、選択の幅が増えるかもしれない。
「時間を移動する方法を考えないとな……」
誰か成功した前例がないかといろいろ探してみる。
〜〜
「できた……」
前例がなかった為、独自論で何とか試作機が作れた。また1週間程かかりこれでようやく並行世界世界と共に時間旅行も出来る。
とは言えタイムマシンはこれから実験する為失敗可能性も高い。早々にやって置かないと。
その時だった。
「ハルツギ先輩!」
玄関からチャイムとノックとフユモトさんの声が響く。
外界からほぼ遠ざかっていた為、思わずドキッとしてしまう。
僕の家は防衛軍の登録以外で外部に漏らした事がないし誰にも教えていない……というか知りたいという人はいなかったと言うのが事実。
どうして彼女がここを知っているか?
覗き穴を覗くと私服の彼女が荷物を抱え、泣いていた。
「先輩! 私やっぱり納得いきません! どうして防衛軍辞めちゃうなんて言うんですか! 私! 先輩が来なくなってから……もう先輩の事しか考えられなく大変なんですよ! 研究に没頭すると食事もほとんど食べないから、先輩死んでないか心配で!」
と、叫び続けていた。
言われると確かにお腹が空いていた。
……そう言えば研究室にいた時も、彼女が昼食の時間に声をかけてスケジュール管理をしてくれていた事を思い出す。
そうだ……やっぱり僕は彼女にいつも助けられてて感謝してるし……それに本当は異性として好きなんだと思う。
本当の本当は、彼女が恋人ならとふとした時に思い悩んでしまうのだ。
僕はまた
「マイナス……500京点!?」
3週間前の彼女より殺意が5倍に増していた。覗き穴からは悲壮感が漂っているが、開けた瞬間に刺されても仕方ない数値を叩き出している。
きっと、僕が勝手に抜けてきたから仕事が全部彼女に集中して、もはやこの手で殺さないと気が済まないと言った所なのかもしれない。死んでないか心配というのは、この手で殺す前に死ぬんじゃねぇぞって事?
「逃げよう……」
このまま出たら殺される可能性が高い。
本当は彼女に殺される事こそ僕が生まれてきた最大限の命の使い方かもしれないけど、フユモトさんに前科がついてしまうのは1番良くない。
予定通り
かと言って開けっ放しにしてしまったら、フユモトさんが家に侵入した場合、そのまま並行世界で遭難してしまうかもしれない。
ゴチャつく頭の中を整理し導き出される回答は、
「タイムマシンで逃げよう」
ふすまも御札を大量に貼ってある為、きっと開けようとは思わないから安心。タイムマシンも試作機だから安定性はないけど時間跳躍事態は確実に出来るはず。
想定だと、50年ぐらい未来までは飛べるかな?
「ごめんよフユモトさん……」
君の鬱憤を晴らしてあげられないけど、君はこれから幸せに生きてほしい。
僕はそう願い、玄関から離れてタイムマシンのボタンを押した。
〜〜
気づくとエキゾチックな雰囲気に変わった自室にいた。
「ワンワン!」
「うわっ!」
部屋の中に太った柴犬がいて思いっきり吠えてくる。
そして、足元や壁を見てみるとツノの生えた虫達が所々にいる。
「これは……カンボジアに生息していると言われるバッファローツノゼミ?」
日本にはいない虫が湧いている。
そう考えると、僕は
案の定ふすまは開き、向こう側にはジャングル広がっていた。
「ちょっとちょっと君! なに人の家入ってるんっすか!」
ふすまの向こう側からテンガロンハットを被った小太りの男が駆けつけてくる。
「え、あ……」
「君? カンボジアの原住民じゃないよね? って事は玄関から来たの? ダメだよ! 不法侵入だよそれ!」
僕は納得する。
50年後にタイムマシンを設定したから、ここに僕は今ここに住んでいない。
恐らくこのハット男が次の家主なんだ。
「すみません……僕、昔ここに住んでた者で……」
「え? 昔住んでた?」
「はい……そこの
そこまで言うとテンガロンハットはポカンと硬直する。今のうちにこっちの事情を伝えておこう。
「すみません。今タイムマシンの実験で50年前から来てしまっただけなんです。すぐ別の所へ行きますので……すみません」
そう言って、僕はタイムマシンを起動し直そうした時だった。
「ちょちょちょっと待て! 貴方がこの部屋に住んでたマッドサイエンティストって事っすか?」
「マッドサイエンティスト? えっとまあ……元防衛軍の技術者ではありますけど……」
そう言うと、テンガロンハットにガシッと手を握られる。
「え?」
「いやーまじか! こんな素晴らしい
そう言われ太い腕でブンブンと振り回される。
「名乗る程の者ではないんっすけど、僕は冒険家を生業にしてましてね! あーそうだ! 散らかってますけどお茶出しますので、おかけになってくださいよ博士!」
「は、博士……」
「ほら、ベス! ちょっと部屋の虫を
「ワン!」
ベスと呼ばれる太った柴犬はテンガロンハットの言葉通り、虫達を追い払い始めた。
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