天才めがね君

バンブー

プロローグ

「やったぞ! 太陽フレアを回避する事ができた!」


 署長のガッツポーズと共にモニターを見ていた地球防衛軍の隊員達が湧き上がる。

 トリあえず、僕も皆が喜んでいる事に何か反応した方が良いかもしれない。


「あ……良かったですね。署長」

「良かったですねじゃないだろ! ハルツギ僕の名前、全部お前が開発した光遮断アンチエイジングバリアのおかげで今人類が救われたんだ! お前の功績なんだぞ!」


 そう言われると、隊員の皆が僕を取り囲む。


「凄いぞ!」

「やったね! !」

「本当に天才だ! めがね!」


 天才めがね君。

 これが僕のコードネーム。

 そして、昔から機械をイジるのが好きな僕のアダ名。

 この地球防衛軍に配属され、日々多くの機械を作ってくれと依頼を受けて造る仕事をしており、いつの間にか皆がそう呼ぶようになった。

 正直このアダ名は好きじゃないんだけど、皆がそう言うから受け入れている。


「どうも……」


 肩を叩く皆に、僕は相槌を返していく。

 大したものは作っていないのだけど、開発した物が役にたったみたいで良かったけど……僕の気持ちは晴れない。


「……そうだ」


 僕は自分の眼鏡に仕込んでおいたボタンを押してスカウターを起動する。

 レンズの中の液晶が起動し、周りの人達の体温や脈拍、臭いや視線等が分析されていく。

 特に女性を中心に見回していき、眼鏡に表示される数値を分析していった。



〜〜



「はぁ……」


 やる気を失い、項垂れながら廊下を歩く。


「やっぱり、全然誰にも好かれてなかった……」


 片手間で作った、この眼鏡スカウターは自分に好意を持っているかを遺伝子レベルで分析してくれるのだが、あの空間の女性陣達は誰一人、僕に好意を持っていないのがわかった。

 凄い凄いと声をかけてくれても、それで異性として見ている訳ではない。

 そう、天才めがねと言われた僕は、別に世界を救いたくて地球防衛軍の役職に就いた訳ではない。

 ただ単に、


「モテたい! 彼女がほしい! デートとかイチャイチャしてみたい!」


 それだけなのだ。

 思わず壁を叩いてしまったが、昔から異性と友人にすらなった事がない。ただ、唯一声をかけてくれるタイミングがあり、それは僕が何かを作り発表された時だ。

 その時には必ず、


『わー! めがね君スゴい!』


 と言ってくれる。

 運動もダメで面白い話も出来ず、まともに人と話事も出来ない。

 いつも僕は空気みたいな人間だが、発明して役たった時だけは声をかけてくれた。

 だから、凄い物を作っていれば彼女が出来るかもしれないと研究開発に没頭し、いつの間にか地球を救っていた。

 もしかしたら、今が僕の絶頂期だったのかもしれないけど……

 先程の分析で、誰も僕を恋愛対象として見ていない事がわかった。

 そもそも……凄い事がイコールで好意になるって冷静に考えたら心理学的に結びつかないよな……だけど、そのタイミングしか女の子に声をかけられないし……でも、凄い凄いって言ってる時に僕が「好きです付き合ってください」って文法がそもそもおかしい気がする……やっぱり空気を読むのは苦手だ。


「そうだ……仕事辞めよう」


 天職だと思っていたけど、研究開発してもモテないなら僕にとってこんなの無意味だ。

 もっと違う方法で彼女を作って――


「ハ、ハルツギ先輩!」」

 

 後ろから聞き覚えのある女子の声。

 振り向くと同じ研究室に所属している生物工学を専門とするフユモトさん……立場上僕の後輩であった。


「フユモトさん?」

「何処に行くんですか! ハルツギ先輩は今日の主役じゃないですか!」

「う、うん……」

「えっと……浮かない顔をしてどうしたんですか? 先輩のお陰で地球を救えたんですよ! アベンジャーズに入れるぐらい凄いんですよ!」


 心配してくれる可愛い後輩である。

 正直フユモトさんは可愛い、周りと同じ凄い凄い女子の1人だけど、僕みたいな人間を気遣ってくれる優しい子だ。


「先輩! 私、先輩の事いつも尊敬してます! いつも人の役にたつ物の開発に取り組んでて、そして世界まで救っちゃうなんて惚れ直しちゃったかも……なんてね! えへへへ!」


 頬を染めつつ照れながら僕の事をいつも褒めてくれる。

 僕の事を天才めがね君ではなくちゃんと名前で呼んでくれるし、彼女といると楽しい。

 一時期、彼女は僕の事を好きなんじゃないかと思い、この眼鏡スカウターを作り僕に好意があるのか確認した……だが、確認してしまったのが運の尽きだった……

 改めて迷惑をかけないよう、この子をまた好きにならないように眼鏡スカウターでフユモトさんの総合好意点を見て見る。


「ま……マイナス100京点……」


 僕の事が嫌いであるほどマイナスになる設定にしてあるのだけれど……100京って……

 こんなに話しかけてくれて気を使ってくれているのに、本心は反吐を吐く程嫌だって事がわかってしまった。

 ショックを通り越して、彼女には本当に申し訳無い。

 ……そうだ。


「フユモトさん、君に伝えておきたいことがあるんだ」

「え!? な、なんですか!? ハルツギ先輩から伝えたいなんてめ、珍しいですね!」


 ソワソワしているフユモトさんに、僕は意を決して伝える。


「僕、今日で辞職しようと思うんだ」

「……え?」


 硬直する彼女に背を向ける。


「もっと違う環境で、頑張っていきたいなって思ってね……それじゃあ元気でね」

「え……え? え? え?」


 彼女の顔色が青ざめて行くように見えたけど何故だろう?

 恐らく最近働き詰めだったからやっぱり体調が悪かったのかもしれない。

 フユモトさんに会えなくなるのは悲しいけど、こんなにも嫌われてるなんて思わなかったから、これがお互いの最善なんだと思う。


 よし!

 気持ちを切り替えて、新しい恋を見つけに行こう!

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