第16話・異世界人が異世界ざまぁで悪党退治③

 茶屋でカミュは旗本の三男坊を名乗る若侍の『イエイエ』と、カラクリお茶運び人形娘のお加代と一緒に団子を食べて、お茶を飲みながら話しを聞き終わったカミュが言った。


「なるほどなぁ、その獄刀組ってのは相当の悪党みたいだな」

人柱ひとばしら銀山を独占していて、獄刀城まで造ってしまって居城しています……ほら、あの左側に見える黒城が獄刀城です。右側の離れた場所にあるのが、エドハルマ家のエドハルマ城」


 カミュは、そっくりな二つの城を見た。

「そんな獄刀組を好き放題にさせて民衆が苦しんでいるのに、幕府のエドハルマ家将軍は何も、手を打たないのか?」


『三代前のエドハルマ家初代将軍の時代なら、将軍さまの威厳で獄刀組も大人しくしていたって、おとっあんが言っていましタ……今の将軍さまは気弱で、幕府の内部にも獄刀組からの賄賂わいろを受け取っている者もいるから……ダメだって言っていましタ』


 お茶運び娘カラクリが、茶屋の縁台からチョコンと地面に下りる。

『アタイ、もうおとっあんの店にもどらなきゃ……イエイエさま、今日は話しを聞いてくさださって、ありがとうございまス。イエイエさま、火消し組の祭り好きなかしらによろしク』


 そう言い残して、トコトコと土手道を去っていく、お加代の後ろ姿を眺めているイエイエがカミュに向かって呟いた。

「ボクは優しいだけの、ダメ男です……優しさなんて、なんの役にも立たない」

 その時、土手道を横切って現れた若い男が、カラクリ人形のお加代を捕まえて連れ去ろうとした。

 カミュが駆け出すよりも早く、走り出したイエイエが刀の鞘で男のすねを払って転倒させる。

「お加代さん、大丈夫……あっ、気を失っている」

 追いついたカミュが、転倒して意識を失っている男の着ている着物の紋を確認して言った。

「獄刀組の下っぱだ……こりゃあ、人さらい……もとい、人形さらいまでする連中を放ってはおけないな」


 カミュが、お加代を介抱しているイエイエに言った。

「さっき、自分は優しさしかないダメ男って言ったな……イエイエは自分を過小評価しすぎだ。優しさも才能の一つだ……その優しい才能さえ無いヤツも世の中にはいる、イエイエは自分で思っているよりも、スゴいヤツだぞろ……ウソでもいいから自信を持て、じゃないとえりから少し見えた背中のタトゥーが悲しむぞ」


  ◆◆◆◆◆◆


 その頃──遊郭ではイケニエと獄刀組の幹部が、意気投合して騒いでいた。

「そうかぁ、おまえさん転生者か。気に入ったぜ、特上寿司喰いねぇ、大吟醸だいぎんじょうの酒呑みねぇ」

 酔っ払ったイケニエが豪語する。

「オレには必ず……チートな、すっごいスキルが隠れていて無双して……それから、成り上がって……ぐうぅ」

 酔っ払って眠ってしまったイケニエを見て、獄刀組の幹部連中が不敵に笑う。

「寝ちまったな……つねっても起きやしねぇ、アホ面の異世界人」


 妖艶ようえんな雰囲気を漂わせた、獄刀組手下の遊女が言った。

「どうだい、銀山の人身御供にはピッタリの野郎だろう……異世界人ならいなくなっても、誰も気にしない」

「人柱銀山に人身御供を捧げれば、銀の質が上がる……そんな迷信でも、銀の価値が上がれば儲けもんだ……このマヌケ顔の転生者を、銀山の縦穴に放り込め」


  ◆◆◆◆◆◆


 イケニエが遊郭から消えて、行方不明になってから数日後の夜──人があまり寄りつかない河原の水車小屋の中に、カミュとイエイエの姿があった。

 カミュはドールの、モンスターボールたちに、散らばっている異世界人たちへの伝達を頼む。

「伝えてきてくれ、今夜〝異世界ざまぁ〟を決行するから獄刀城に集合するように……と」

 モンスターボールたちは、水車小屋から飛び出して分裂すると八方に散っていった。

 イエイエが、カミュに訊ねる。

「いったい、何がはじまるんですか? 異世界ざまぁって?」

「なーに、ちょっとした仕置きだ……イエイエも参加してもいいぞ。どこかに、お供がいるなら」


 小一時間後──エドハルマの町に散らばっていた異世界人たちが、一点の獄刀城へ向って集結していく。

 路地から合流する者や、単独で向かう者などさまざまだったが……目的は同じ、異世界ざまぁだった。

 中には後方に土煙を、ジェット機のように噴射して夜の道を疾走していく者もいた。


  ◆◆◆◆◆◆


 獄刀城では、獄刀組の悪党たちが、酒を呑みながら悪巧みをしていた。

「まったく、人身御供の穴に放り込んだヤツは、そのまま穴の底を突き抜けて星の地下世界まで落ちたかな? 知っているか、この惑星エドハルマには空洞世界があるらしいぞ」

「いやですよ、親分あんな伝説本気で信じているんですか……ほほほっ」

 部屋の中には、真空管のモノクロテレビ、裸電球と滅多に使わない行灯がある。

 その時、障子を破って飛び込んできた小石が真空管のテレビ画面を破壊して、裸電球にも命中する。


 月明かりが障子に映る中の怒鳴り声。

「なんだぁ、襲撃か? 明かりを点けろ!」

 火打ち石の音が響き、明かりが灯った行灯に電気を含んだ小石が命中して暗くなる。

「どこから、こんなに正確に狙って、小石を投げている?」


  ◇◇◇◇◇◇


 獄刀城の敷地内に潜む、ラチェットがあり合わせの材料で作った。即席の携帯小型投石器で電気を含んだ小石を次々と発射していた。

 ピピの触手に触れて飛んでいく鉱石は、電気を帯びて高速でレールガンのように飛んでいった。


 異世界人の奇襲に驚いた獄刀組の連中が、城の中や庭へと、飛び出してきた。

 廊下で待ち構えていた狂四郎の妖刀【妖精割り】が一閃すると、悪党は一瞬コマ切れになって、元の状態にもどる。

「しばらく動かなければ助かるでござる……動いたらコマ切れ状態に変わるでござる……ざまぁ」


 別の獄刀組の組員は、メリノのヌイグルミ魔法の餌食になった。

「ヌイグルミになっちまえ! ざまぁ」

 ポンッポンッポンッと白煙の中、獄刀組のヌイグルミが転がる。

 妖艶な遊女もヌイグルミに変わった。


 ハラミの戦斧が獄刀組のタタキを作り、源サンの「うまいぞぅぅぅ!」光線が獄刀組を吹っ飛ばす。

「はい、大皿に乗った獄刀組のタタキがお目にとまれば、元へともどす……ざまぁ」


 庭で刀を抜いたヤゲンが言った。

「オラはオークの医者だぜら、オークの病気や傷を治すのが仕事だぜら……おまえたちは、オークじゃない。叩っ斬ってやるぜら! 執刀」

 獄刀組員たちの病巣臓器を次々と、切除していくヤゲン。

「今回は特別に、痛くなるように執刀してやったぜら……ざまぁ」


 ヤゲンに執刀されて、苦しがってもがいている組員たちに駆け寄ったドールが、聖女の微笑みで癒しの光りを手から発する。

「あはっ、大丈夫ですよ……聖女の癒しの力で、すぐに元気になりますからね」

 組員たちの傷口から腐敗ゾンビ臭が漂ってきた。

「うわぁ、近づくな呪いの雑巾臭い女!」

 ドールの口調が変わる。

「おめぇ、今なんつーた。臭い女だと! モンスターボールさんたち、やっておしまい……ざまぁ」

 

 スレッジハンマーを担いだメロンが、獄刀組員に言った。

「時の女神の力を思い知りなさい……時間よ止まれ……ざまぁ」

 メロンの時間が止まる。

 近づいた組員の一人が、停止したメロンの頬を指でつついて言った。

「なんだぁ、コイツの時間が止まっちまった。金属みたいに体がコッチコッチだぜ?」

 神仏の天罰で、自分の時間を止めたメロンの体は青銅像のように変わった。

 走り込んできたカミュが、金属化したメロンをつかむと、メロンを武器にして振り回す。

「でかしたメロン、強力な武器が手に入った。神は死んだ、世界は不条理で満ちている……ざまぁ」

 次々と獄刀組を硬くなったメロンで、カミュはブッ飛ばした。


  ◇◇◇◇◇◇


 異世界人のざまぁに、獄刀組は成すすべもなく崩壊していく。

 最後に残った組長と数名の組員は、追いつめられて炭小屋まで逃げる。

「いったいなんなんだ、あいつら強すぎる」

 残った獄刀組は逃げ込んだ炭小屋の中に、若侍姿のイエイエがいた。

 やさ男のイエイエを見て、こいつなら勝てると判断する組長。

「やっちまぇ! これ以上得体の知れねぇ、異世界人に舐められてたまるか!」

 イエイエに襲いかかる組員たち、だが見た目に反してイエイエは強かった。

 刀の鞘で強打されて呻く、組員たちが炭小屋の中に転がる。

 組長を前に威厳のある口調で、イエイエが言った。


「民衆を苦しめ続けた獄刀組も今日で終わりだ……ボクの力不足が、エドハルマの人たちに苦しみを与えてしまった……その目に焼きつけよ、この紋章を」

 着物の片肌を露出させたイエイエの背中を見た、獄刀組の組長は驚愕して言葉を失う。


 イエイエの背中にはタトゥーで、惑星エドハルマ星花の南国花の中に、エドハルマ家の紋章が描かれていた。

 呟く組長。

「まさか、エドハルマ家、三代将軍……エドハルマ・イエイエ」


 将軍イエイエが言った。

「成敗……ざまぁ」

 炭焼き小屋の中に隠れていた、二人の忍者が飛び出してきて棍棒で組長をブッ叩いて気絶させた。

「キュウゥ」


  ◇◇◇◇◇◇


 獄刀組を倒した異世界人の前に、獄刀城の中に隠れていた組頭が現れた、手には証文の束を持っていた。

 組頭がヤゲンに向って深々と頭を下げる。

「あの時は命を助けていただき、ありがとうございました……こんなお礼の形しかできませんが」

 そう言うと組頭は、獄刀組が集めた借金の証文をすべて破り捨てた。

 破られて効力を失った証文が、夜空に花ビラのように散った。


  ◇◇◇◇◇◇


 超異世界女型要塞プルシャが、惑星エドハルマを離れる日がやって来た。

 メリノが船橋で言った。

「みんな乗り込んでいるな、プルシャ発進」

 上昇していく超異世界要塞を笑顔で見上げている、エドハルマの者たちもいた。

 成層圏近くまで上昇した時に、腕組みをして考えていたカミュが、ポツリともらす。

「何か忘れている気がするな?」


  ◇◇◇◇◇◇


 その頃──やっと、人柱銀山の縦穴から這い登ってきたイケニエが、上昇していくプルシャを見て叫んだ。

「なんで、オレだけぇぇぇ!」


 駆け出したイケニエの所に飛んできた巨大ロボットの、三ツ首のガルムが乗り遅れたイケニエをつかんで急上昇した。

 三ツ目頭ガルムが言った。

《もう、おバカさん……しっかり、体中の穴を締めていなさいよ。もうすぐ大気圏に出るから》

「ぐあぁぁぁッ、なんでオレだけぇぇぇ!」

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超異世界女型要塞【プルシャ】姉型~異世界の宇宙〈ソラ〉は五分前に爆誕しました~ 楠本恵士 @67853-_-

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