第15話・異世界人が異世界ざまぁで悪党退治②

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 エドハルマで有名な寺の本堂で仏像を前に、柄が長いスレッジハンマーを持った女神ヌクテ・メロンが暴れていた。

 寺の坊主たちが必死に、ご本尊を守ろうとしている手を振り払ってメロンは黄金に耀く仏像に向って大型ハンマーを振り下ろす。

「あたし以外の偶像崇拝は認めない! 拝むなら女神のあたしを拝みなさい!」


 金属音が本堂に鳴り響く、真っ青になる寺の坊主たち。

 仏像の顔面が陥没した。

「ご本尊さまに、なんというコトを! 神仏の罰が当たりますぞ」

「女神のあたしに、罰など当たらない! 崇拝するなら、あたしの姿像を拝みなさい……ほらっ、こんなポーズの女神像はいかが? うっふ~ん」

「うわぁぁぁ! このハレンチな罰当たり女!」


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 聖女のドール・ジは、神社巡りをして御朱印集めをしていた。

「はい、この神社の御朱印ですよ」

「あはっ、ありがとうございまーす」

 神主から御朱印スタンプを押してもらった、ドールは嬉しそうに集めた御朱印を眺める。

 そんなドールの様子を見ていた神主が言った。


「あなた、あの船に乗ってきたんでしょう……よかったら数日間、巫女の短期仕事バイトしてみない」

「あはっ、あたしが巫女さんですかぁ?」

「来るはずだった女の子の都合が悪くなってね……あなただったら、顔色は茶色の海綿カイメン色をしているけれど、可愛いから巫女姿が似合うと思うよ」


 神主はドールが連れている、モンスターボールたちを見て言った。

「一緒にいる、そのボールに手足が付いたような子たちも参拝者の人気者になると思うよ……三食と宿泊する部屋も用意しますから」

 カッパ、ミイラ男、ヴァンパイア、ワーウルフたちがうれしそうに跳ねる。


「巫女さんやってみてもいいですけれど、大丈夫ですか? あたしたちが乗ってきた要塞船の評判、かなり悪いみたいですけれど……呪われた船だとか、災いの黒船だとか言われていますけれど」


「あんなのは、未知の文明への畏怖から町で騒がれているだけだよ……わたしは気にしていないよ、もっとも前回にあの船が来た時には、災害や疫病や飢饉が数年間に渡って続発したけれど……そんなの偶然だよ……たぶん、コレを見て」


 神主は浮世絵のような絵をドールに見せた。そこにはクチバシを生やした人魚のようなモノが横たわっている絵が描かれていた。


「それ、なんですか?」

「厄災避けの絵ですよ、この絵を壁に飾っていれば厄災を避けるコトができると広めたら爆売れしました……一種の自己暗示ですけれど。どうですか? 巫女さんついでに、厄災避けの絵のモデルをやってみませんか……あなたみたいな可愛い子の絵なら、ヲタクな人たちが先を争って買っていきますよ……モデル代も出しますから」

「あはっ、神主さん商魂たくましいですね」


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 ラチェット・レンチとシノギ・狂四郎は、名刀匠の家に来ていた。

 狂四郎から受け取った刀を鞘から抜いて眺めている刀匠が、コレクションで集めた異国の機械を興味深そうに見ているラチェットに向って言った。

「小僧、いくら見ていてもそのガラクタは動かんぞ……壊れた骨董品だからな」

「小僧じゃありません、ラチェットです……修理すれば、まだ使えますよ」

「修理できればな、さて一つ目の御仁から頼まれて刀を見させてもらったが……率直に言おう──おまえさんの剣技の腕前に刀の方がついていけなくて悲鳴をあげている。二~三回が限界だな、この刀は折れるぞ」


「やはり、そうでしたか……なんとか、刀を鍛錬し直すコトはできませんか?」

「無茶を言うな、そもそも異世界の刀の鍛錬方法と、宇宙の刀の鍛錬の方法は材質からして違う。仮に研師に出しても戸惑うだけだ悪いが諦めて帰んな。この星じゃあ異世界の刀に真剣に向き合えるほどの、腕を持った匠はいないからな」


 気落ちしている狂四郎を見て、ラチェットが刀匠に言った。

「仮にボクが、ここにある壊れた機械を一つでも直せたら。隣の部屋に飾られている刀剣を一つを、狂四郎さんにあげることはできませんか?」

「ふむっ、いいだろう……ただし、儂の尻が座布団から離れる前に直させ……」

 ラチェットは、刀匠の言葉が終わる前に、いつも携帯している工具類で、壊れた機械を分解して瞬時に組み立てた。

「直りました、これで動くはずです」

「ウソをつけ……まだ、尻が座布団の上に……動いている?」

 文字盤の時計の、止まっていた秒針が時を刻みはじめた。


 ラチェットの修理の腕前に感心する刀匠。

「たいしたものだ、約束の刀剣だったな」

 刀匠は隣の部屋から、油紙に包まれた長物を持ってきて、狂四郎の前に差し出して言った。

「以前、依頼されて打って完成したが。依頼主が現れなかった刀だ……無銘だが、なかなかの名刀だ」

 一礼した狂四郎が油紙を開くと、中から緑こしらえの日本刀がでてきた、

 鞘が緑で、柄も緑色の刀だった。

 狂四郎が鞘から引き抜いて、刀身を一つ目で眺める。

「これはまた、見事な……吸い込まれるような刃紋の刀でござるな」

 ラチェットも、狂四郎が手にした刀を見て言った。

「刀の切っ先にとまった、羽の生えた妖精フェアリーが、足を滑らせたら、真っ二つになりそうな妖しい輝きの刀だね」

「そうでござるな……妖刀『妖精フェアリー割り』と、でも名づけるでござる」


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 カミュとイケニエは、歓楽街の遊郭のような場所で昼間から、酒を飲んで遊んでいた。

 遊女のような女たちを周囲に集めた酒池肉林状態の中……調子に乗ったイケニエは、バカ騒ぎをしていた。

「酒よこせぇ! オレさまは転生者だぞ! 念願のハーレムだぁ!」

 朱色の器に遊女が注いだ酒を、イケニエは仰ぎ飲む。

「ささっ、若旦那……もう一杯」

「おお、どんどん酒と食い物持ってこいやぁ! わはははっ、オレさまは異世界転生者だぞ!」


 静かに一人酒をしていたカミュが、立ち上がって言った。

「どうも、こういう場所はオレには合わないな……悪いが、ここから別行動させてもらう。酒もほどほどにしておけよ」

 そう言って、カミュはバカ騒ぎをしているイケニエを残して座敷から出た。


 カミュは遊郭の渡り廊下で、遊女が二人立ち話しをしているのを耳にした。

「あの、お座敷で昼間っからバカ騒ぎしているマヌケ顔は、どこかの材木問屋の若旦那か何かかね?」

「それが、どうも異世界のクズ転生者みたいなんだよ」

「金は持っているのかね?」

「無いね、あの貧乏クジ顔は……おっと、もうすぐ獄刀組の幹部さんたちが来る時間だ、粗相そそうが無いようにしないと」

 カミュは、少しイケニエのコトを心配しながらも遊郭を出た。


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 神殺しのカミュは、川端の土手道を景色を眺めながら歩いていた、季節がら土手に植えられたエドハルマ桜の花が満開の中。

 土手道の茶屋で並んで座っている若侍と、カラクリお茶運び娘人形を見た。


 カラクリお茶運び娘が、隣に座っている十五歳くらいの若侍にタメ息混じりに話している声が、それとなくカミュの耳に入る。

『旗本三男坊のイエイエさまに、こんなコトを話してもしかたがないんですけれド……おとっあんと店を助けるためには、やっぱりアタイが獄刀組に行った方ガ』

「それはダメだよ、お加代さん……お加代さんが、獄刀組に行っても何も解決はしないよ、変な考えを起こしちゃダメだ」

『イエイエさま……』


 カラクリ人形と若侍に近づいたカミュが言った。

「悪いな、話し聞こえちまった……なんとなく気になってな、詳しく聞かせてくれないか、力になれるかも知れない──この世界を創ったオレなら……おっと口が滑った、忘れろ」

 カミュが向けた手の平から発せられた光りを浴びた若侍と、全長四十センチのカラクリ娘は、カミュが言った言葉の最後の方を忘れた。

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