青は藍より出でて藍より青し

磧沙木 希信

青は藍より出でて藍より青し

 教壇に立ち、生徒たちの顔をゆっくりと見渡す。


 いつもの賑やかな雰囲気はなく、静寂が広がる教室。


 聞こえて来る音は、鼻をすする音だけ。



「なんだ、どうした? 今日はやけに静かじゃないか」


 出来る限り、いつものように話かける。


 いつもは授業をサボる生徒も、クラスのお調子者も、今日は借りてきた猫の様に静かにしている。



「ふぅ……それじゃ、授業を始めようか」


 しかし誰一人として、口を開く事も、教科書を開こうとする者はいない。


 俺も今日だけは教科書を開く事はなく、生徒の目だけを見て話を始める。



「一つ……古い中国のことわざを一つ、教えよう」


 自分の声がやけに大きく聞こえる。


 

「”あおあいよりでてあいよりあおし”、と言うことわざだ」


 後ろを向き、黒板に書き込む。


 チョークの「カツッカツッ」と、その音だけが教室に響いている。



「この”あい”は色の藍だな。赤色とか黄色とかのだな」


 振り返り、生徒たちの顔を見る。



「次に、言葉がどうできたか。由来ってやつだな」

 

 いつもとは少し違う授業風景。



「みんなは藍色あいいろって知っているか? 綺麗な濃い青色なんだが。藍草あいぐさと言う草を使い、染め上げるんだ。この藍草は様々な作業工程を得て、元となった藍草よりも鮮やかな青色を出すことが出来るんだ」


 でも、いつも通りに授業を進める。

 


「そんなことから、このことわざは二つの意味で使われる」


 良い生徒たちだった。



「一つは、人は勉強や努力をする事で、色んな事を経験する事で、生まれ持った才能を越える事が出来る。そんな意味だ」


 色々あったな。



「そして、もう一つの意味が……」


 本当に楽しかった。



「……教えを受けた人が教えた人を越す事が出来る。つまり、君たち生徒が俺たち教師を越す事が出来る。そう言う事を表すことわざだ」


 それを聞いた生徒たちは、下を向き肩を震わせている。


 ……時計を見る。


 ……もう、時間なんだな。



「みんな……」


 ありがとう。


 俺は涙をこらえ、震える声を抑え、心からこの言葉を送る。



「卒業、おめでとう」


 


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青は藍より出でて藍より青し 磧沙木 希信 @sekisakikisin

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