色を見せてくれる人
きつねのなにか
私と君の色とは
私は生まれ育ったときから色が見えない。白と黒の濃淡でしか世界を認識できない。
まあ、そんなの生まれつきならなんとかなっちゃうんだけど。困ったことはあんまり無い。友達もいじめる人はいじめるけど、いじめない人は配慮してくれるしね。
ああ、夕焼けは困るかな、だんだんと地面が暗くなっているから。多分車は無理だろうなあ。
そんな私ですが、高校まで一緒になった幼馴染みがいます。
さて前置きはこんなもん。問題は今目の前に
「や、やあ、礎くん。今ちょっと暇かい」
「あ、ああ。そりゃお前に呼び出されたんだから、ひめ、ああいや、暇を、作ってきたよ」
出ましたお前呼び。私はあんたとお前で呼び合える関係っていいなって思うの。うちの親がそうだからってのは大いにあると思うけどね。たまにちゃんと名前で呼ぶからさらに得点が上がるってのもあるけど。
「あの、さ」
「う、うん」
「あ、明日から礎くんのお弁当作ってきてもいい?」
「え、なんで?」
あー違う、これじゃない! これ思ってたけどちょっと違う、今じゃない!
話を続けなくちゃ、続けなくちゃ。
「ほら、なんかおばさん忙しいみたいじゃん、チラッと見たけどお弁当も冷凍食品が多かったしさ。あ、いや! 冷凍食品が駄目なわけじゃないよ! でも、その、私なら、その、二人分くらいなら作れる、というか」
「ラノベでしか見たことなかったぜ、こういうの。その、なんだ、恥ずかしくない? いや、
きたここで名前呼び。嬉しくてぶっ倒れそう。告白は失敗してるけどぶっ倒れそう。
「そっか、そうだよね。唐突にごめんね」
そう言って後ろを振り返る。なんかいろいろと失敗したな……。
「いやいや、まてぃ! 食いたい、お前の弁当が食いたいぞ! あーなんか今もお腹すいてきちゃった。あとで購買行こ?」
ぎょっとして振り返る。本当は二人分作る余裕なんてないのだ。
「え、じゃ、じゃあ明日からお試しで作ってくるね。うん、えっと、ありがと」
「い、いや、明日からよろしく。ありがとな」
そう言って別れた。
ふう。体中が熱い。鏡で自分の顔を見るといつもとは違う発色をしている。これが【赤いという色】なんだろう。礎くんはいつも私に色を見せてくれる。
本当に不思議で素敵な存在。非常に悪い言葉だけど、私が独り占めにしたい。誰かの彼女になってほしくない。私だけの存在になってほしい。中学校高学年くらいからいつもそう思っていた。
これが恋なんだろうか。
あー、帰る前にスーパーよってこ。卵は黄色と透明から白、ほうれん草は緑、トマトは真っ赤っか。なすは……なんだっけ。
次の日。超忙しく二人分のお弁当を作る。ちょっと冷凍食品にも頑張ってもらった。
そして昼休み。
二人で教室を抜け出し、外庭にあるベンチに座る。
「はい、作ってきたよ。色が見えないから彩色悪かったらごめんね。今日は気合い入れてるから大丈夫だと思うんだけど」
「おう、開けるぞ。お、すげえ、卵焼きに、トマトとほうれん草の何か、後はハンバーグか?」
「トマトとほうれん草の炒め物。ハンバーグは冷凍食品。以外と二人分作るの大変でさ、ちょっと頼っちゃった」
頂きます! と既にがっついている礎くん。味は大丈夫かな……。
「美味い! 美味しいぞ! っかーこれは幸せだわ! ご飯はおにぎりか! しかもデカいの二個! っかーたまらん! ご飯だけの弁当箱持ってこようかって思ってるくらいご飯足りなかったのだわ!」
ニコニコ顔でこっちを見る礎くん。その時ちょっとしたことが。
「あれ、なんか色が見える。礎くん興奮してるよね? このいろって多分赤? え、なんで? 学ランの黒ってこんなに【私の黒】と違うんだ」
「え、なんか変わったことしたか? 美味い美味い叫んでるだけだが」
十秒くらいでその現象は消えた。
「消えちゃったな。何だったんだろ、今の。礎くんの幸せそうな所みて嬉しくなっちゃったからかな? それで脳のスイッチが切り替わって、みたいな」
私が持ってきた麦茶を壮大に吹き出す礎くん。
「ごめん、変なこと言っちゃったね!」
「いや、いや、ごめん、びっくりした。嬉しくてそうなるなら弁当の時は毎回嬉しくさせてやれるぞ。ラグビー部だから練習後も凄いお腹すくんだ」
「じゃあ持って行こうか! でも練習後に二人で食べていたらさすがにカップルに思われちゃうね。3人分作る時間は十分あると思うんだけど。私は文学部だから差し入れにしよっか?」
「俺は、俺は――俺は別にカップルだと思われても構わん!」
「えっ、それって」
「幼馴染みの友達から幼馴染みの友達以上の関係になってはくれんか」
目の前が色鮮やかになってぐるぐる回る。あー世界ってこんな色してたんだ、綺麗だな。
次に起きたときは保健室。倒れたとのこと。少しだけ色が残ってる。薄い水彩画ってこういうのなんだろうな。今はもう放課後。いやいやいやいや、そんなに寝ているんだったら救急車呼べよ。
いつも力尽きて寝ている五限六限なんてあってないようなものだし、今日は文学部をおやすみしてラグビー部の練習を見に行く。
そこには男性が一杯いた。礎くんがどこにいるかわからん。
ただ、コーチから一人呼び出されて何かを喋った後私に指を差す行為が見えた。あ、礎くんだ。軽く手を振る。
「起きたんだ。良かったよ無事で」
「ううん、ごめんねびっくりし過ぎちゃって」
「いや、俺が悪かった。あの話は無しで。俺たちそんな関係じゃないよな」
え。
「いやいや、お弁当も三人分作るし、そういうかんけ――」
「まだか!遅いぞ遠藤!」
「今行きます! 幼馴染みが一番だよな! じゃ、練習があるから!」
手を振り後ろを振り返る。目の前が真っ黒になった。全てが黒い。
よろよろと黒いベンチに座りぼんやりと空を見上げる。真っ暗の空が私を迎え入れた。
何分かベンチに座っていたけど、この黒は消える気配が無い。これで帰るのはかなり危ないな、でもそろそろ動かないと。
「どしたの
現れたのは
「えっと、礎くんのことなんだけど、そのー、振られちゃって……」
「いや、それは何かの間違いだ。間違いを正してきなさい」
即座に否定する古都にゃん。そんなにすぐ反応するぅ?
とりあえず事情を説明した。
「なるほどね、勘違い野郎だからな礎ちゃんは。嬉しくて倒れたのをショックで倒れたって思ってるんだろう。そろそろ部活も終わるころだ、私が行って話してくるから明日の弁当三人分は作っておくんだ。秘策を教えるから。ごにょごにょごにょ」
「ええ、そんなことを!? でもわかった、やってみる。だめなら一生黒い世界と付き合ってもいいや」
「いや、奴が駄目でも人生は長いからね……」
秘策を教えてもらったことで少しばかり黒が消え、スーパーに寄れるくらいに。梅干しは何色だっけ。つけ汁によるからな。鮮やかなのがいいんだけど。
次の日は昨日よりもっと早起きをして三人分仕込む。お父さんに頼み込んで弁当箱を貸してもらい、一面に梅ご飯を敷き詰める。そして海苔でアートをして蓋を閉じる。
ラグビーの練習後のお弁当は特大梅おにぎりにした。
そして運命の昼休み。礎くんに向かう。
「一応今日もお弁当作ってきたよ、行こう?」
「いや、俺今日は購買で」
「い こ う ?」
「わ、わかった」
沈黙のまま廊下を歩き、外庭のベンチに座る。
「はい、お弁当。今回はお弁当二個使ったよ。ご飯はちょっと重いかもしれない」
「うお、まじか。くいきんかったらラグビーの練習後に食べるな」
そういってご飯が入ったお弁当を開ける。
「こ、これは……」
固まる礎くん。目の前が暗くなったり色が見えたりと何かと忙しい私。
「切り抜いた海苔ででっかく好き、か。そっか、あっちじゃなくてそっちで倒れたのか。そっか。えっと、その、なんだ」
「――好きです。大好きです」
長いこと沈黙する礎くん。全ては私の勘違いだったのだろうか。
「礎くん?」
「お、俺で、俺で良いのか?」
「むしろ礎くんだからいいんです。礎くんじゃないといやです。礎くんの隣にいるのは私です」
古都にゃんの言いつけ通り押して押して押しまくる!
「わかった、俺でいいのなら、よろしく頼む」
「それは彼氏になってくれるっていうこと?」
確実な言質をとれという言いつけも守る。
「ああ、お付き合いしてください」
この言葉を聞いた瞬間世界に色が付いた。
心の底から嬉しいと色を判別する組織と脳が結合するのかもしれない。
「これが死んだじいちゃんとのなれそめ。そのあと二人とも医学部に進学してねえ、進学校だったから。じいちゃんが研究者、ばぁばが実験者となって先天性色彩喪失症の治療に奮闘したのよ」
「へーじいちゃんって凄かったんだね!」
「そうだよ、凄かったんだよ。私に色を付けたのもじいちゃんだからね」
色を見せてくれる人 きつねのなにか @nekononanika
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