第28話 死闘の功績
「お〜い!こっちも手伝ってくれ!」
「ちょっと待て!ここ終わらせないと通りづらいだろ!」
「あ〜、腹減ったな〜」
「さっさと動け馬鹿!!」
額から汗を流し、周辺に転がりまともに歩くことも出来ないような瓦礫を一つずつ退かす冒険者たち。その全員が大変な思いをしているが、誰一人として嫌々とやっているものは居ない。
迷宮都市ソムニウムに、最大危険度『特S級』の認定を受けた犯罪者【蠍】が襲撃してから2週間。商人も平民も冒険者も総員で街の復興作業に当たっている。
蠍襲撃の被害は甚大で、巨大な都市であるソムニウムの建物40%は破壊され、合計30万人もの住人が死亡。総人口200万を超えるソムニウムにとっても、無視しがたい被害である。
「ようやく、少し落ち着いてきたかな。」
そして、巷で蠍討伐を成し遂げた英雄などと言われ少し恥ずかしい気持ちをしている僕は、リミットブレイクの影響で魔力が一ヶ月使えない。それでも鍛え上げた基礎身体能力で復興作業を手伝っています。
「皆さん!差し入れのご飯持ってきましたので、是非食べてください!!」
数十万人ものソムニウムの人々が復興作業を行っている中、ソムニウム南東部の復興をしていた僕たちの元に、金髪ロングの僧侶であるセリカさんか、軽く100人前はあるであろう串焼きを持ってきた。
「うおおお!!!!!」
「ナイスだぜセリカちゃん!!」
「元気百倍だわ!!」
長い時間に渡る復興作業で疲れ果てていた冒険者たちも、これにはニッコリ。僕もさり気なく2本ほど串焼きを頂く。
「ん、美味し。」
差し入れなのに何故か温かい串焼きを頬張ると、とても美味しい。久々に魔力を使わずに重労働をしていたので全身が筋肉痛だが、これでまだまだ頑張れる。
「あの、シオンさん、でしたよね。」
「あ、はい、どうかしましたか?」
串焼きを頬張っていると、冒険者全員に配り終えたセリカさんが話しかけてくる。そういえばこの人は、ネメシスさんのパーティーで、S級のヒーラーの方なんだよね。
「あの時は、本当にありがとうございました。貴方がいなければ、私やサルファも殺されていました。」
「あっそんな、頭なんか下げないでください。僕は結局、ネメシスさんも、え〜と、クロフォードさんも死なせてしまいました。」
「それでもです、私達を助けてくれて、本当にありがとうございました。」
深く頭を下げてお礼をするセリカさん。正直、僕自身としては、大事な人だったであろうネメシスさんを死なせてしまったから、罪悪感のほうが大きいのだけども。
「それと、冒険者ギルドのギルドマスターがシオンさんを呼んでいました。至急、ギルドまで来て欲しいと。」
「は、はぁ。分かりました。」
一体、なんのことなのだろうか。僕は冒険者ギルドのギルドマスターのことは名前すら知らないし絶対蠍絡みのことなんだろうけど。
(面倒事は嫌だな〜。)
僕はそんな事を考えながら、冒険者ギルドへと向かうのだった。
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「改めて見ると、大きいな、、、」
剣が交差し、力の象徴とも言える看板が建てられた巨大な建物『冒険者ギルド』の前で僕は感嘆を溢す。
来たのは約三週間ぶりだけど、なんだか長い時間来てなかったみたいな感覚だ。それほど、蠍との死闘や街の復興で手一杯で、大迷宮の攻略なんてろくに出来なかった。
(少し落ち着いたら、大迷宮の最深階層でも目指してみようかな。)
20年前に、S級冒険者18名とA級冒険者130名がレギオンを組んで到達した人類の最深階層はなんと86階層。正確には、87階層なのだが、87階層にて大迷宮攻略に赴いた冒険者が『全滅』して、情報がないから86階層になっている。
(それにしても、呼び出しってなんだろうか。なんかちょっと怖くなってきたな。)
僕が冒険者ギルドの目前で立ち往生していると、後ろから声が聞こえ、背中に手をそっと触れられる。
「は、、、???」
次の瞬間、景色は一変する。先程まで屋外にいたというのに、今僕が見ているのは少し広めな部屋に机が一つある事務室のような場所になったのだ。
「はは、驚いているね。でもセリカから話は聞いてるだろう?」
「セリカさん、、、ってことは、貴方は、、、」
そして、机に座って僕をニヤニヤと見つめるのは黒髪ショートで髪留めをつけており、とても似合う黒い和服を着た女性だった。
和風な雰囲気の女性は机に座り、両手を組み顎を乗せ、鋭い眼光で僕を見て答えた。
「冒険者ギルドの長、ギルドマスターを務めさせてもらっている『トモエ=ミカヅキ』だ。今回は呼び出してすまないね。」
「いえ、とんでもない、、、」
この人が、巨大迷宮都市ソムニウムを統括する冒険者ギルドマスター。随分と若そうだが、恐らく純粋な人間ではないのだろう。感じる圧が人間のそれではない。
「それで、なんで僕を呼び出したんですか?」
「単刀直入に言えば、君をS級冒険者に昇格させるという話だ。」
「はいはい、、、って、S級冒険者!?」
「良いノリツッコミだねぇ?」
いやいや、僕大迷宮に全然潜ってないし冒険者ギルドになんも献上してないんだけど、なぜいきなり昇格?しかもソムニウムにも数人しかいない貴重なS級冒険者に?
「君が成し遂げた偉業、長年世界を脅かしてきたインセクトのNo.3を討伐したこと。それを国の冒険者ギルド本部に伝えたら、君を昇格させろと言ってきてね。まぁ当然といえば当然なんだけど。」
「そんなに、あの蠍はヤバい奴なんですか?」
たしかに、蠍は化け物みたいに強かった。守護者を使わなければ一切ダメージが通らない硬すぎる鎧に、一撃貰えばパフォーマンスが著しく落ちる猛毒。さらにあのチートの権化でもある巨大な尻尾、勝てたのが奇跡レベルで強かった。
「当たり前だろう?蠍こと、本名ジグルスはリンドブルム王国から正式に『特S級』の認定を受けている国家転覆級の犯罪者だ。特S級ってのは、一人で国を滅ぼせると判断されたものにしか付かない。」
「それで、僕を昇格させると、、、」
なんだか、急展開過ぎて話が追いつかないけれど、どうすれば良いのだろうか。取り敢えずありがたく受け取ればいいのだろうか。
「まぁそんなに気負わなくていいさ、君は今まで通りで良い。まだソムニウムには滞在するのかい?」
「いえ、少し行きたい場所が見つかったのでそっちに行こうかと。」
「ほう?新S級冒険者のシオン君の行きたい場所とな?」
そう、今僕には一つ足りないものがある。それは大迷宮攻略のときにも思っていたのだが、今回の蠍討伐で確信した。
「【王都】です。今の僕には、一緒に戦ってくれる仲間がいないので、人の都である王都なら見つけられると思って。」
「良い判断だね、王都には名だたる武人や魔術師も多く滞在するし、奴隷だっている。それにお貴族様と仲良くなれたら強力な血筋と才能を持つ貴族を仲間に出来る。」
僕がこれからのプランを話すと、ミカヅキさんはにやりと口角を上げた。そして、何か勿体ぶるような口調で話し始める。
「そんな人をものみたいに扱う気はありませんよ、ただ、僕の恩師から自分を大切にしろと言われたので、今回みたいなギリギリの戦いはもう勘弁です。」
「そうだね、一つアドバイスをしてあげよう。」
ミカヅキさんは机から立ち上がり、鋭い眼光で僕を睨みつける。その瞬間、僕の背中に違和感が生じた。
「なっ!?」
机の前にミカヅキさんはおらず、いつの間に移動したのか分からないが僕の背中に自分の背中をくっつけて、囁くように喋り始めた。
「今の王都には、『勇者』が滞在している。君やあの怠け者のようなただの有資格者じゃない、女神が選んだ本命だ。」
「っ!?まさか、貴方もその、有資格者、、、?」
「いーや違う、私は有資格者なんて大層な者じゃない。だけど、一般人よりも少しだけこの世界を知っているだけの和風なお姉さんだよ。」
勇者。お伽噺でしか聞いたことのない魔王を打ち倒す者、そんな伝説上の人物が王都にいる。僕はソレを聞いて、ほんの一瞬、ほんの一瞬頭に欲望が過ってしまった。
(勇者、仲間になってくれるかな?)
旅立ちは2週間後、リミットブレイクの魔力使用不可が解除されるその日。僕はその日を、とてもとても楽しみに思った。
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第二章『駆けるは彗星、妖艶なる鬼の姫』これにて終了です。いかがでしたでしょうか?楽しんでいただけたのでしたら作者冥利に尽きます!
作者自身戦闘シーンが大好きな人間なので、クライマックスの堕天大罪司教VS彗星・妖鬼戦と、シオンVS蠍はかなり楽しく書かせていただきました!
明日からは、ついに第三章がスタートします『廃れし鐘の音、錆解くは人類の護り手』。第三章、是非お楽しみに!
槍魔術師シオンの成り上がり いふる〜と@毎日七時投稿! @atWABD
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