第27話 駆けるは彗星、妖艶なる鬼の姫 FINAL


『ほいやっと』


次の瞬間、尻尾が地面へと突き刺さり轟音を響かせる。それを認識した瞬間には、僕の足元から尻尾は豪快に地面を破壊しながら出てくる。


「《絶対防御》」


『っへぇ?硬いね〜』


だが、僕の全身を囲むように発動された明緑の結界は尻尾の突き上げを容易に防いでみせた。これこそが守護者の真髄、圧倒的な防御。


『なら、次は弾幕で行こうかな〜』


「来い、受けきってやる。」


蠍が片手剣を掲げると、数百の黒紫の片手剣が空中に出現し一斉に僕の方へと放たれる。それは放たれたそばからリロードされまるでマシンガンのようだ。


だが、僕に向けて放たれる超スピード超威力の弾幕は全て、明緑の結界『絶対防御』が防ぎ切る。


(凄いな、これだけ強いのか。)


アイアンやハルマさんがあんな化け物みたいに強い理由が分かった。彼らはリミットブレイクをずっと昔に習得し、今に至るまで研鑽を詰み続けてきていたのだ。


「今度はこっちから、《ダメージコンバート》」


弾幕がひとしきり終わった瞬間、僕は絶対防御を解除。次の瞬間、僕の全身は白銀のオーラに包まれる。ま〜たセルスイメージじゃないか、どこまで思い入れがあるんだよ僕。


『ッフフ!良いね!久々に斬り合えそうだ!』


ダメージコンバート、リミットブレイク発動からダメージコンバート発動に至るまでの時間に防御したあらゆるダメージ分に応じて自身を強化する術。防御から攻撃に転換する。


「《星穿》!!」


『《黒蠍剣撃》』


ダメージコンバートによる強化、その倍率はなんと40倍。最奥発動で既に10倍まで上昇した身体能力がさらに引き上げられ、その白銀槍は容赦なく牙を剥く。


地面に蜘蛛の糸状のヒビを入れるほど、力強く地面を蹴り抜いて加速する。その速度、実に光をも凌駕する。


蠍の心臓目掛けて解き放つ光速の突き、自分でも驚くくらい化け物スピードで放たれた突きは蠍の肌が粟立つほどの禍々しいオーラを放つ片手剣の振り下ろしと鍔迫り合いを行う。


『アハハ!!!私と鍔迫り合いを出来るなんて、団長と蜈蚣(ムカデ)以来だよ〜!!』


「アンタほんとに、どんな筋力してんだ!!」


鍛え上げた僕のそもそもの肉体が魔力によって強化され、それもリミットブレイクとダメージコンバートでさらに強化したってのに、素の身体強化と黒紫の鎧だけで同等の筋力を発揮し押しつぶそうとしてきやがる。


「《ダリア・ヴェルディア》!!!」


『ッ!なるほど!魔術威力も上がるんだね!』


鍔迫り合いの均衡状態を崩すのは、王級氷魔術ダリア・ヴェルディア。本来ならば触れている対象の内部を凍らせ、破壊する魔術なのだが守護者を発動していることで、僕の周辺全ての内部を凍らせ破壊する魔術へと昇華した。


鍔迫り合いを行っていた黒蠍剣は一瞬にて粉々には破壊し、蠍の内部を凍らせた瞬間蠍は尻尾を乱暴に振り回した。


『ふぅ〜、危ない危ない。』


ダメージコンバートを解除し、絶対防御を発動して尻尾の攻撃を防ぎながら後退する。だが、凍らせる事はできたのでもう一度触れられれば破壊できる。


「まだ、まだァ!!!」


絶対防御を解除、ダメージコンバートを発動して蠍に突進。守護者を発動したことでそもそもの防御力と自然回復速度、そしてあらゆる毒への耐性を獲得したことからある程度の被弾は許容範囲内。ならば、ダメージコンバートで攻めるのが最善択。


『ほいっと』


「《ラウルス・ヒルド》!!」


頭上から襲い来る尻尾は、雷撃の自動カウンターで弾き返し僕自身は槍を一閃。片手剣による防御で防がれたが、まだ終わらない。


「《ホーリーブレズ》!!!」


身体強化魔術、一時的に筋力だけを上昇させる魔術を自分にかけた僕はその上げたパワーで強引に片手剣を押し切った。


「よしッ!!」


次の瞬間、片手剣を粉々に砕いた白銀槍。だがそれで終わることは無く、再び振り抜かれた白銀槍の一閃により蠍の腹部の鎧は完全に弾け飛び、内部の肋骨は大半が砕けたであろう。


ようやくのダメージ。少なくとも、今まで戦ったどこの誰よりも強いこの蠍にダメージが入ったことで、僕は死ぬほど喜ぶ。


『痛いな〜、しょうがない。本気を出すよ。』 


蠍が少し残念そうな顔を浮かべながら、その片手剣を消失させる。次の瞬間、空気が変わる。


「ッ!?」


蠍から放たれる強烈な圧力、奴を包むのは黒紫の煙のようなものであり、煙がまるで片手剣のような形を成していき、蠍の右手に収まる。


『【黒毒刻剣】』


煙から実体化する片手剣、柄は黒くて、刀身は紫。そして感じるのはアホみたいな量の魔力。


「上等。リミットブレイクの試し台にしてやるよ。」


『やってから言ってね〜!』


僕は走り出しながら魔術を発動、電撃オートカウンターのラウルス・ヒルドに、筋力強化のホーリーブレズ。地面から生命力を吸い上げ自然回復速度を上げるアースリバイバル。万全に万全を期す。


「《光断・八閃》!!」


『【黒蠍剣連撃】』


更に上がったスピードによって引き起こされるほぼ同時の八連撃。決して避けることなど出来ない光を断つ斬撃を弾いたのは、黒紫の片手剣だった。


「攻め続けるッ!!!」


だが、止まらない。守護者を発動しダメージコンバートまで行えば僕のほうが筋力もスピードも技術も魔力も防御力も上、ならば、ゴリ押すのは今しかない。


基礎的な身体能力の暴力によって引き起こされる斬撃の嵐。所々に蹴りや殴りも入れた攻勢は奥の手まで使った蠍ですら防ぎきれずに鋭い白銀槍の一閃が蠍の右股を深く切り裂く。


「《アブソリュート・ゼロ》」


次の瞬間。僕を中心とした半径50メートル近くの文字通り『全て』を凍てつかせる。それほ蠍も例外ではなく、ほんの一瞬だけしか拘束できなかったが、その一瞬で充分だ。


「《星穿》!!!」


人間の体では、到底耐えきることなど出来ない無茶な機動で強引に白銀槍を放つ。僕の体はメキメキと軋む音を立てたがそんなのは無視、0.001秒だけでも拘束できた蠍の腹部に、風穴を開けられたのだから安いものだろう。


『っ、痛いじゃん。久々だよ、傷を負うなんて。』


蠍は腹部を貫くのとほぼ同時に氷の拘束を強引に破壊し、片手剣を僕の頭に振り落とす。


振り落とされる片手剣は、守護者の効果で強化されたラウルス・ヒルドの自動迎撃により弾き返す。そしてその瞬間、僕は僅かな隙を見つけた。


―――――――【やっちゃえ、シオン。】


僕の脳内に響き渡るのは恩師の声。自分の信念に囚われ責務も果たせなかった僕の考え方を、根本から変えてみせた白銀の魔女の声が聞こえた瞬間、僕の口角はつり上がった。


(もちろんッ!!!!!)


身体強化200%、立っているだけで全身の骨がバキバキになるほどの強化倍率の身体強化を発動し、リミットブレイクで10倍に、さらにダメージコンバートでそれを60倍にまで引き上げる。


『ッ!?』


僕の全身から明緑のオーラが吹き出す。守護者とは、己がちっぽけな力にて大切なものを守る者。


だが、ちっぽけな力が時に、強者を喰らう。


「【守護者の鉄槌(ガーディアンブレイク)】」


白銀の槍からさらに強い白銀光が吹き出し、存在感が膨れ上がる。さらに、噴水の如く大量に発生する明緑のオーラが蠍の全身を掴み拘束した。


刹那。


魔力も体力も信念も想いも、今僕が持つ全てを乗せた突きが放たれる。人類の護り手による、破壊の一撃。護るために殺すその一撃は、いかなるものを貫き通す。


『ぐふっ!!??、、、』


白銀光に包まれた白銀槍が、蠍の鎧に包まれた左胸を鎧ごと貫通する。白銀槍が蠍の心臓を貫いた瞬間、白銀光が大爆発を引き起こし。周辺50メートル近くのあらゆる建物を破壊し、辺りを更地のクレーターに変える。


「かっ、、た、、、」


きっと、今の僕は傍から見たら呆けているのだろう。だけど、あれだけうじうじしていて、大罪司教相手に逃げることしか出来なかった僕が、これだけの強敵を倒したのだ。フリーズしても、仕方あるまい。


『っふ、ちょっと、遊び感覚で、来たのに、まさか、殺られる、なんてね、、、』


蠍は左胸から中心に腹部の大半が消し飛び、左腕は完全に爆発によって消失。左半身はほぼ無いに等しい状態で、喋ってみせた。


「お前は、悪魔教ではないよな?なぜここに来た?」


『私、はね、インセクトって、いう、組織の、No.3。悪魔教の、知り合いに、頼まれて、手伝いに、来たんだよ、、、』


インセクト、これまた初めて聞く名前だけど恐らく闇組織なのだろう。しかも、この強さの蠍でNo.3、少なくとも二人はこれより上がいると考えると恐ろしい。


『まぁ、最期の殺し合い、楽しかったよ、、、言い残すこと、なんて、これで、じゅう、ぶん、だ、、、』


蠍は最期までニヤニヤとした笑みを崩さず、戦闘狂として命を終えた。その遺体は、ここら周辺を更地に変えるほどの威力の守護者の鉄槌を食らってなお、人形を留めており、その化け物級の耐久力を知らせる。


「シオン!!!!」


「ッ、、、アイアン、、、」


瞳から光を失った蠍を見つめていた僕の後ろから聞こえた声、思わず振り返ると、そこには見るからにボロボロで、僕と同じように魔力切れに苛まれているだろうアイアンがいた。


「コイツは、たしかインセクトの、、、まさか、これをシオンが?」


アイアンは蠍の遺体を確認して、都市に襲いかかった脅威を特定する。そしてそれを理解した瞬間、驚いた様子で僕の瞳を見つめた。


「それに、リミットブレイクも起動している。この短期間で一体何が、、、」


アイアンは頭を抱えながらなにやら考え込む。そして、ひとしきり考え終わったところで、手を上げて笑った。


「まぁひとまず、良くやった。君はこの都市の英雄だ。」


「ッ、はい!」


アイアンが爽やかに笑ってみせ、ハイタッチをする。そしてその瞬間、僕の肉体に限界が来る。


「ぐぁっ、、、」


「シオン!?」


5分経過。リミットブレイクの発動時間が終わったことで強制的な失神が発動して、僕の意識は闇へと誘われるのだった。







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