2 キラキラの世界は色眼鏡ばかり

陽輝ようきはカッコイイからスポーツも勉強も何でも出来そうだねぇ」

茂庭もてい君は将来イケメンになってモテるだろうねぇ」



 そんな事を言われ続けてきた僕は、みんなが僕に当てはめる「イケメン」の固定概念から外れないように意識しながら生きてきた。


 困っている人がいたら手を差し伸べる。

 皆に優しく。

 スポーツも勉強もできるのがイケメン。


 だから、どっちも頑張った。



「陽輝〜、サッカーのメンバー足りねぇから助けてくれぇい」

「えぇ〜ダメよ、茂庭君は私たちと今度の小テスト対策で図書室に行くんだから〜」



 僕の人生は順調だ。


 人生が順調な僕が誰かに手を差し伸べる仕事をするなら、どんなものがいいだろうか。

 高校三年生の時に担任の先生に軽い気持ちで聞いたことがあった。


「茂庭くんはあたりが柔らかいから、提案型の接客業がいいかもしれないわね」

「提案型?」

「そう。お客さんの悩みを聞いて、それに合わせた商品を提案するの」


 この時の担任のアドバイスを元に大学時代に始めたアルバイトでかなりお客さんの心をつかんだ。

 おかげで学生アルバイトながらも固定客を持ち、紹介する商品がことごとく売れていくことで本社の人間からも注目され「是非ウチに正社員として働いて欲しい」と懇願された。


 あまりの必死さに僕は根負けし、そこに就職を決めた。


 どうしてもやりたい仕事という訳ではないけれど、就職した企業は都内の銀座に本店を構えたスキンケアを中心に商品展開している有名企業だ。


 イケメンで、文武両道。性格も良くて、誰もが知っているような有名企業に就職。

 まるで、少女漫画にでも出て来そうな「THEイケメン」となった。


 周りからはとても羨ましがられた。

 また、僕をひいきにしてくれている固定客たちも今後も僕の接客を受けられると喜んでくれた。



 ただ、僕も昔の子供のようにはいかなかった。


 周りの人間はではなく「イケメン」を見ている。外見。学歴。加えて人畜無害なコミュニケーション能力。

 ここに至るまでの僕の努力など知りもしないし、興味もない。もしかしたら「イケメン」が見たいだけで、僕自身にすら1ミリも興味が無いのかもしれない。


 だから僕も、相手を一人の人間ではなくステータスで認識することにした。

 相手の内面など特に接客には不必要だ。それでも商品は売れるのだから。




 んん? こんなきらびやかな店舗にはとても似合いそうにない残念なお客さんが来たな。


 黒髪、切りっぱなしで特に手入れはしていなそうだ。

 化粧も慣れていない感じにみえる。全体が濃いのでバランスが全く取れていない。

 来ている洋服も少しばかり流行遅れだ。

 猫背で歩く姿は何だか自信なさげに見えて、それがますますこの場に合っていないと言っているようだ。

 その下がった眉毛は化粧のせいか? それとも何か本当に困っているのか?


 どんな外見であろうと、この店舗に立ち寄ったということは立派な客だ。

 ここで、また新たな固定客の獲得といこう。


 僕は女性受けする笑顔を貼り付けながら近づいていった。



「こんにちは~、何かお探しですか?」

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君の世界と僕の世界 たい焼き。 @natsu8u

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