君の世界と僕の世界
たい焼き。
1 赤のない世界
「んなぁ~」
「はいはい、ごはんかなぁ~。ちょっと待っててね~」
ミーコのいるアパートに引っ越してきて半年ほど経った。
相変わらずミーコは甘えん坊で、何かあると小さく鳴きながら意見を主張している。
リビングでぼーっとテレビを見ていた私は「よっこらしょ」と立ち上がりながらキッチンへ向かい、ミーコのご飯の準備をはじめた。
「あ、そうだ。ミーコの新しいご飯皿買ったんだよね~。気に入ってくれるかな……」
私は前にインターネットで見つけたフードボウルを開封して、それにご飯を入れてミーコの席へ置いた。
すでに自分のお気に入りの場所で私がご飯を運んでくるのをおとなしく待っていたミーコは、新しいフードボウルを一瞥すると私の目をじっと見てきた。
「こういうポップな色ってなかなか買えないから思い切って買っちゃった。……ミーコは気に入らない?」
「……」
ミーコは新しいフードボウルはお気に召さなかったのか、興味なさそうにそっぽを向いてしまった。
最近流行の北欧柄で目をひく真っ赤なデザインで可愛いと思ったんだけどな~。
この出来事を軽い雑談のつもりで大家さんへ話すと、大家さんは少し眉を困らせて頬に手を当てて「あら」と小さくぼやいた。
「内村さんは猫が赤色が認識できないって知らなかったのね」
「えっ、そうなんですか?」
その後、調べてみると猫には赤系を認識することが難しく、緑っぽく見えたり紫も赤が抜けて青っぽく見えたりしているらしい。
そのかわり、夜は人間よりもはっきり見えていたりする。
そうかー。だから、新しいフードボウルにも反応が薄かったんだ。
赤いフードボウルでご飯を出した時に、結局ミーコはご飯を口にしなかったので何となくまた以前のフードボウルに戻してご飯をあげていた。
「ごめんね、ミーコ。赤が認識できないなんて知らなかったんだ……」
「なぁぁお」
ミーコが私の手の甲に頭をスリスリとこすりつけてくる。
これは、許してくれたってことでいいのかな?
***
あたしの召使が勝手に浮かれて勝手に落ち込んでる。
ホント、忙しい子ね!
あたしのご飯皿を新しくしたとき、あたしの態度が良くなかったのかしら。
前のお皿は白くて好きだった。新しい色は……黄色っぽいというか、なんか……ご飯が全然美味しそうに見えなかったのよね。
そんなの、食べる気失せるに決まってるじゃない?
だから、前のやつに戻って良かったって思ってる。
それにしても、ウチムラはあまりセンスが良くないのかもしれないわね。
メスなんだから、美的センスを磨いておかないと良いオスが捕まえられないわ。
暇な時にセンスを鍛えてあげなきゃ!
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