(三)-7(了)

 だから私は「募金していただけないならどうぞ行って下さい」と言って手で促した。

 男は勢いよく鼻を鳴らすと、駅の改札の方へ歩いて行った。

 きっと彼は幼い頃から勉強をする環境が与えられていたのだろう。そのため彼はそれに十分傾注することができた。そして試験という「公平」な競争の中で「公平」に勝った。彼にとってはそれが当たり前の環境であり、他の人が違う環境に置かれているなんてことは考え及びもしないのだ。しかし、彼と同じ環境を与えられていない者にとって、それは「公平」であったのであろうか。

 そう考えると、この国にはまだまだ「善意」が足りていない。そう思わずにはいられなかった。


(了)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

善意の総量 筑紫榛名@9/8文学フリマ大阪 @HarunaTsukushi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ