第2話 勇者と魔王は紙一重

 そこから後も…… いや、思い出したくない。

 足が沢山な奴は、嫌いなんだよ。


 何とか、燃やしていく。

 そう、森ごと全部。


 ダンジョン内は、すっかり様変わりをして、聞き及んだ赤のダンジョン内部と、きっと同じ感じなのだろう。


 とにかく降りて、すべて燃やした。


 気が付けば、宝玉アタックを食らって、外へ放り出された。

 知らない間にボスを倒したようだ。


「おめでとうございます」

 顔が、リリスの胸に包まれる。


「あと一つだな」

「お体に、変化はございますか?」

「ああ、ものすごく、体に力がみなぎっている」

 そう伝えると彼女の顔がほころぶ。


「それでは、お裾分けを頂かなくては」

「お前も好きだなあ」

「いやですわ」

 なんてことを、言っていたときもありました。


「赤の試練。これが最終です」

 皆に見送られて、足を踏み入れる。

 聞いていたとおり、灼熱の火山の中。


「絶対零度ー」

 本当は違うが、イメージだけしっかりすれば、かけ声は何で良い事に気が付いた。

 魔法が発動し、広がって行くにつれ、温度が下がっていく。


 歩きながら、魔法を繰り返す。


 するとだな、この中にいるモンスターも冷えて、ぽろぽろと落ちてくる。

 外皮の外に泡を纏い、その外がさらに堅くなっている。

 意外と内臓とかは普通だな。


 まあ割れて死ぬんだけれど。


 まるで緑と同じ感じ、ただ魔法を使い歩いて行く。


 今ドラゴンみたいなのが、顔を出そうとして、頭が重いのかもげて落ちた。


 そして、歩みは止めず、最下層まで。


 そこでは、大きなドラゴンが固まって居た。


 ふわっと、宝玉が湧いてくる。

 警戒をしたが、アタックをしてこないようだ。

 手を伸ばすと、頭の中に声が聞こえる。


『強きものよ。力を手に入れ。この世のすべてを手に入れるがいい。だが、今一度考えろ。後戻りはできない』

「そうは言われてもな。こっちも後戻りは出来ないし」

 手を伸ばす。


 触れた瞬間。アタックだよ。

 だが、強化されたのか、何とか耐える。


 だが体全部が創り直されるような、痛み。

 細胞レベルで、一度捲られ。また一から貼りなおされるような。気持ち悪さ。


 しかしそれが落ち着くと、ものすごい力を感じる。


 まだなぜかダンジョン内に居たが、力を解放をすると。

 ダンジョン自体が吹き飛んだ。


 空間的にどうなっていたのかわからないが、地上では深さ三十メートルほどのクレーターが出来ただけ。


 ふと気が付くと、目線がおかしい。背が高くなっているのか?


「王よ」

 そう言って、皆が跪く。

「そう言えば、王に会った事がなかったな」

「今まで空位でございました。十年前ヒト族の白の勇者に殺され…… 国内は好き勝手に陵辱を受けたのでございます。王よヒト族の国へ殴り込みましょう。我が同胞は多数攫われております」

「そうかわかった」


 そう言って、行ったんだけど、普通の国なんだよ。

 俺は、体を守る変な鎧が自動装備され、額にも立派な角が生えている。

 勇者と言ったが、黒の勇者と呼ばれている。

 敵からは、魔王とか。


 戦闘装束になると、リリスには蛇が巻き付き、皆も翼やしっぽが生えているんだよな。

 これはもう。俺は魔王で、皆は魔王軍。

 向こうの勇者が本物という事で良いね。

「負けないけれど」


 赤、緑、青のダンジョン。すべての力を得ると黒くなる。

 色水を混ぜて説明をしてくれる。

 光の三原色ではなく、ダンジョンの力は減色混合CMYだったようだ。

 限りなく黒。

 闇の力を身に纏い暴れる。


 敵の勇者を倒しても、帰ったら警察どころか、自衛隊がやって来るよな。

 身長は、二メートル五十センチを越え、指には鉄より強い爪。

 角が生え、しっぽと羽。

 デビ○マンそっくり。


 いや額の角だからセーフ。


 だけど、帰って就職をしてどうなる?

 今なら、逃げ回っていた女の子も、一にらみでふらふらと抱かれに来る。

 向こうへ帰って、普通の生活。無理だな。


 そうして俺は、この世界で立派な魔王になる事を選択した。


 だが。

「ありがとうございます。おかげさまで勝利をしました」

「いや、もう帰らずにこちらで……」

「何を仰います。あなたの待ち焦がれた元の世界。帰って頂いて結構です」

「リリス」

「何でしょう? 元樹は充分に働き王国に報いてくださいました。お気を付けてお帰りください。淋しくはありますが。これも定め」

 そう言って、部下達が総動員で、召喚の間へ押し込んでいく。


「どうしてだ?」

「あなたは強すぎるのです。私たちが寝られません」

「はっ?」

 えっ? そんな理由? 言ってくれれば、我慢もするしローテーションだって考えるのに。

 そんな事を思っていたら、本当に戻ってきた。


 だけど、あの後。階段から落ちて、首でも折ったのかな?

 体が動かない。

 そこで意識が落ちると。


「勇者様。よくぞ…… 魔王」

「うわぁ。魔王がきたぁ」

 召喚されたらしい。今度は白の勇者として。


「さあ。どうしてくれようか」

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KAC20247 赤、緑、青は、現実では白にならず、闇に落ちる。 久遠 れんり @recmiya

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