告白の行方

奈那美(=^x^=)猫部

第1話

 昼休み。

私たちはお弁当を持って、屋上に続く階段に行った。

まだ寒いけれど、教室で恋バナなんてできないもん。

踊り場でならんで階段に座る。

「うっわ、思ったより寒いね」

有紀が言った。

「ほんとほんと」

佳織も同意する。

 

 「寒いから、サクッと教えてね?昨日のこと。そしたら教室に帰るから」

「う~。っていうか、ホントは聞いてほしいんだけど、なんか照れくさいっていうかさ」

……何かいいことあったんだ?有紀。

胸がツクッと痛む。

 

 「なになに?何があったの?」

お弁当を広げながら私は聞いた。

知りたいけれど、知りたくない。

でも有紀の幸せそうな顔は見ていたい。

 

 「帰り道にね、駅まで一緒に歩いたんだけど。手をつないでもいい?って聞いてくれて」

「……手をつないで帰った、と」

こくんと有紀がうなずく。

頬が朝と同じく真っ赤になってる──有紀、可愛い。

 

 「おっきくて、あったかい手だったよ」

ふわふわした笑顔を浮かべる有紀。

「どんな話をしたの?」

横から佳織が聞いてきた。

「放課後、何してるの?とか好きなミュージシャンとか、観てるドラマとか。あと、スマホの連絡先、交換したよ」

 

 ウチの学校はスマホの持ち込み自体は禁止していない。

ただ校内では極力使用しないこと。

ゲームはもちろん禁止だけど(こっそり遊ぶ子もいるけど)、クラスメイト(部活の仲間も含めて)とは校内では話すようにと指導されているのだ。

 

 SNSは手軽で便利だけど、ちゃんと対面でコミュニケーションを取れるようになっていないと後々困ることがでてくるから、だって。

だから私たち三人も帰宅後はチャットとかグループ通話してるけれど、学校ではツールなしでしゃべってる。

昨日は……二人とも告白成功したばかりだったから遠慮したけれど。

 

 「うわぁ、最初ハナからラブラブしてるじゃない」

私のからかいに、有紀は満面の笑顔で返してくれた。

「里穂が応援してくれたおかげだよ。ありがとう」

 

 ……お弁当が半分ものどを通らない。

「じゃあさ、佳織は?」

しゃべり終わった有紀が佳織に問いかけた。

 

 「私は、斉木君の部活見学してたんだよね。来年度の新入生勧誘のための劇、練習してたんだけど」

「そう言えば私らが新入生だったときも演ってくれたよね?」

半分以上残ったお弁当箱にふたをしながら私は聞いた。

「そうそう。それで、今度の劇もオリジナルをやるんだって」

 

 「どんな内容か、聞いてもいい?」

有紀がたずねる。

「それはまだ内緒にしててって言われてるの。ごめんね。だけど、途中ですごく素敵なセリフがあったの」

「どんなセリフ?」

私はたずねた。

 

 「セリフくらいは、教えてくれていいんじゃない?」

「多分。でも、他の人には言わないでね。えっとね『君たちは例えるならば真っ白なカンバスだ。そこに色をのせていくのは、他でもない君たち自身。赤や青の単色でもいい。なんとなれば虹色だっていい。他人任せにしないで、自分自身で色を塗り上げていくんだ』っていうセリフなの」

 

 「へぇぇ。クサイ、クサイけど……劇のセリフなんだよね。なんか、納得できる、というか確かに感動できそう」

有紀が言った。

(オリジナル……誰が書いた脚本か知らないけれど、よくそんなセリフ考えつくなぁ。ほんとに同じ高校生?)

 

 「で、それを言うのが斉木君がやる役の人なの」

「あ、だからよく覚えてたんだ」

有紀がからかう。

「でもって、さらにカッコよく見えたんじゃないの?」

私も負けじとからかう。

 

 「実はそうなの」

赤い顔はしているけれど、あっけらかんと認める佳織。

「それで、部活が終わって一緒に帰ったのは有紀と同じ。ただ私たち、中学から一緒だったから家まで送ってもらっちゃった」

 

 「えぇ!いいなぁ」

有紀が羨ましそうに言う。

「うん……でも、手はつなげてないから私は有紀が羨ましいよ」

佳織が返す。

二人が顔を見合わせてクスッと笑いあう。

 

 「里穂は?」

「え?」

急に二人が私の方を向く。

「ホントに好きな人とかいないの?」

有紀が言う

いる──でも、言えるわけがない。

「いないよぉ。チョコ買いに行った時にも、そう言ったじゃない」

 

 「里穂、可愛いから彼氏とかすぐできそうなのに」

佳織が言った。

「彼氏は……別にいいかな」

「里穂が彼氏作ったらさ、トリプルデートとかできて楽しそうじゃない?」

……そんなことのためにヒトに彼氏作らせようとしてるの?

佳織がちょっと別の世界の人に見えてしまった。

 

 「そのうち、ね。今は彼氏とか考えてないし」

ブブッ

スマホのバイブ音が聞こえた。

私のスマホではない。

 

 「あ……加藤君から。教室に来たけど姿が見えないからって。ゴメン、先に戻るね」

有紀が小走りに去っていった。

「……彼氏彼氏って、ゴメンね。でも、私と有紀とに彼氏ができちゃったから里穂にもって思ったんだ」

 

 「一人になるかもって心配してくれた?」

「うん……私が斉木君と、有紀が加藤君とお弁当いっしょに食べるってなったら、里穂が一人になっちゃうなって」

そう、思うなら彼氏断って私と食べる選択すればいいじゃない?──なんて意地悪な考えは封印しておこう。

好きな人と一緒にお弁当、憧れのシチュエーションであることはわかるし。

 

 「その時は、みはるちゃんたちと一緒に食べるから大丈夫だよ」

「だったらいいんだけど」

ブッブッブッ

またバイブ音。

「ごめん。斉木君から呼ばれちゃった……一緒に教室帰る?」

「うーん。二人の恋バナでお腹いっぱいだから、ここで少し腹ごなしして帰る」

あはは……笑い声を残して佳織は教室に戻っていった。

 

 「彼氏、ね」

スマホをポケットから取り出しながらつぶやいた。

「好きな人とか、言えるわけないじゃない」

──カタン

上の方で音がした。

「なに?何の音?」

立ち上がって屋上の入口を見る。

たしか鍵がかかっているはずだけど。

 

 ヨイショ。

小さな声がして誰かが立ち上がるような、服がこすれる音がした。

そして人影が手すりの向こうにあらわれた。

「遠……藤君?ずっと、そこにいたの?私たちの話、聞いてたの?」

 

 遠藤君は布袋と文庫本を手に、踊り場までおりてきた。

「ごめん……聞こうと思って聞いてたわけじゃないけれど。──ぼく、いつもあそこで昼休みをすごしてるんだ。そうしたら安藤さんたちが来て。ぼくがいることを伝えるタイミング逃したまま……」

 

 遠藤君はシュンとした顔でうなだれている。

そう、後から来たのは私たち。

一番上には誰もいないと思い込んで、ここで話してたんだからのではなくてが正しい。

 

 「ううん、遠藤君は悪くない。ちゃんと誰もいないか確認しなかった私たちが悪いんだよ。ごめんね、寒かったでしょ?」

「寒さは大丈夫だけど、なんか聞いてちゃいけない気がして。物音を立てないようにするのが大変だったかな」

ププッ。

悪いけど、吹きだしてしまった。

遠藤君も照れ笑いしている。

 

 「あ~じゃあ、最後のひとりごとも聞かれちゃったわけか。でも、まあいいか。遠藤君は知ってることなんだし」

「ああ、あのこと?」

「そう」

「そのこと、なんだけどさ。もしも、もしもぼくで構わないんだったら、相談に乗るよ?相談というか……愚痴を聞くというか」

 

 相談でも、愚痴でも。

ものすごく魅力的な申し出。

あんな秘密、他の誰にも相談なんてできないし。

でも遠藤君だったら、秘密を知ってて知らないふりをしてくれてる。

それに──私のことを好きだとも言ってくれた。

だったら甘えちゃっても。

でも。

 

 「でも、それは悪いよ。遠藤君の気持ちを利用することになるもん」

「ぼくは、それでもかまわないよ。もちろん、無理に聞こうというんじゃないんだ。もしも、どうしても誰かに言いたくなった時が来たらって思ったから。誰かに言うことでモヤモヤが晴れるならって」

「それは、そういう時が来るかもしれないし。聞いてもらえたらスッキリするかもだけど。それって、遠藤君にとってはどうなの?自分をフッた人の恋の悩みを聞くことになるんだよ?」

 

 「ぼくは、いや、ぼくがそれでいいんだ。安藤さんにはいつも笑顔でいてほしいから。笑顔の安藤さんが好きだから」

「……ありがとう。あまえて、いいのかな?」

「もちろん。あ、でも話を聞くなら連絡先……」

「今、スマホ持ってる?」

「持ってるけど……え?スマホの連絡先、聞いちゃっていいの?」

 

 「そりゃ、スマホじゃなかったらなにを教えればいいの?家電ではできない話だし」

「あ、ほら。タブレットでメールとか」

「メールでもいいけど、文字打つよりしゃべった方が早いときもあるから……はい、このアプリ、いれてあるよね?」

「うん」

 

 遠藤君がSNSのアプリを立ち上げて私が画面に表示させたQRコードを読み込む。

ピロン♪

電子音がして、友達追加の表示が出た。

「友申完了。……ありがとう。どうしてもって時は頼らせてもらうね」


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告白の行方 奈那美(=^x^=)猫部 @mike7691

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