KAC20247 彼は理系…… 時により、うざい。

久遠 れんり

彼は理系…… 時によりうざい。

「好きな色で分かる、男女の相性診断? 良いわねこれ。面白そう」

 そう、私は軽く考え、彼に聞いてしまった。

 期待したのは、他愛のない、カップルの会話。

 だけど…… 彼は理系だったの。


「ねえ理研りと何色が好き? 実はね……」

 話している途中で、すでに彼の説明が始まる。


「色だと? それは物質表面で反射をする特異的な周波数が……」

「色で……」

「その周波数が色となり……」

「相性判断が…… 聞きなさいよぉ」

 思わず叫ぶ。


「何がだよ。色の話だろ。色と言えば、電磁波じゃないか。しかも粒子性と波動両方の特性を持つ特殊なものだ」

「そうだけど」

 何か、彼のスイッチが入った様だ。

 どこからか、ホワイトボードがやってきた。


「色と認識できる数は、受容体や人種、年齢により違うだが一般に赤から青紫までの7色を可視光と呼んでいる。波長では三百六十ナノメートルから八百三十ナノメートル だな」

「いや、そんな細かなことじゃなくてね」

 そう言っても、彼は止まらない。

「特に研究している赤外は、なかなか奥が深くてね。波長により特性が……」


 うん? 彩子さいこ聞いてる?

「ねえ、好きな色ってなあに?」

「色? 好きなのは、近赤外。だけど、八百ナノメートル以上だから見えないが」

「赤外という事は赤ね。私はピンクだから…… 相性悪いわね」


 数分後……


「あなたの血は、何色かしらね?」

「えっ、ヘモグロビンで赤だろ。ぐはっ」

 思わず、グーで殴る。


「逃げないでよ。どうしてあなたは」

「何だよ、色のことを聞きたかったんだろ」

「そうだけど、そうじゃないの」

 私は、逃げる彼を追いかける。


「ちょっと待て、ナイフは危ないから。とりあえず落ち着こう」

 部屋の中を、あわてて逃げる彼。なんだか少し楽しい。

 いつもひょうひょうとして、憎ったらしい彼が逃げ惑う。


 だけど、そんなのは一瞬。いつものこと。


 彼は、逃げ回っていたはずなのに。

 気が付けば、私は、いつの間にか逆に押さえつけられる。

 そして、始まる。


 彼は、今まで集めたデータに基づき、徹底的に私の弱いところばかりが攻められる。

 そして、頭がドンドンと真っ白になっていく。


 そして、刺すつもりが刺されてしまう。

 むろんナイフではない。


 こうなれば、もう彼の独壇場。

 私は逆らうことなど、できやしない。


「あっ。白なら相性バッチリじゃない」

 すっかりピンク色に染まった頭で、私はそんなことを考える。

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