第52話 一人しか知らないエピローグ

 記念日から一週間、特にこれといった出来事もなく、平々凡々な毎日を過ごしていた。


 朝に加奈と水瀬と学校に行き、授業を受け、放課後にまた三人で帰る。

 何もないが、それが一番心地が良い。

 今日も今日とて、そんな日常は続いている。


「お姉ちゃん、ここの問題どうやって解くの?」


「あ、これはね――」


 二週間後にある定期テストに備えて、放課後に水内家で勉強会を開いていた。

 加奈の部屋に置かれたテーブルを三人で囲み、問題集やノートにペンを走らせる俺達。


「勉強ができない人にとっては一個上の姉がいると助かるな。こうやってすぐ教えてくれるし」


「ムーっ……得意じゃないって言ってほしいんだけど」


 頬を膨らませる加奈に、俺はクスっと笑う。

 あまり勉強が得意ではない加奈にとって、姉がいるのは心強い。家に専属の家庭教師がいると同じようなものだからな。


「今回のテストは絶対に赤点だけは避けたい……」


「せっかくのテスト明けの休みが補習授業で埋まっちゃうもんね~」


「デートに行けなくなるのは絶対にごめんだよ――」


「そっか、二人はデートにその時に行くんだ」


 ハッとした様子で加奈に聞く水瀬。


「四連休になるんだし、どこかに一泊でもしようかって壮馬と話してるんだよね」


「お泊りデートってことだ」


「うん……だからその為にも頑張らないと……」


 会話はしているものの、問題集と向き合い、ペンを動かしている加奈。

 今回ばかりは本気を出さないと俺もヤバそうだ。


 勉強は苦手ではない方だが、今回のテスト範囲は広いうえに難題ばかりだ。そこはあまり問題ではないのだが、加奈に教えながらとなると自分の勉強が疎かになってしまう。


 水瀬に加奈を任せたいのは山々だが……


「受験勉強、しなくていいのか?」


 高校三年の水瀬は、受験真っ只中である。

 加奈に教えるよりもしなければいけないことがある人に、全てを任せるわけにはいかない。


 普通の受験生は自分の勉強でさえ毎日火を噴いているんだ。

 だからこそ、水瀬にあまり負担はかけたくない。


「受験勉強なんて……しなくてよくない?」


「え」


「ちょ、お姉ちゃん⁉」


 ポカンとした表情で小首を傾げる水瀬に、俺達はぎょっとする。


「受験しないってこと……?」


「まぁ、そうゆうことになるよね」


「じゃぁ、お姉ちゃん……ニートになるってこと?」


「違うわ!」


 引き気味になる加奈に、水瀬は急いで訂正する。

 ……よかった。ニート堕ちはしないようだ。

 自分の姉がいきなりニート宣言した妹の気持ちなんて考えたくもない。


「お姉ちゃん、受験しないなら、進路はどうするの?」


 眉を顰める加奈は、水瀬にそう聞く。

 就職だったり、受験しないだけで出願するだけで終わる専門学校に進学したり色々ある道はある。


 けれど、水瀬から返ってきた言葉は……





「私、引っ越すから」





 ニートよりも想像したくないものだった。

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ナンパされていた美少女姉妹を助けたら、お礼ついでにお持ち帰りされた もんすたー @monsteramuamu

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