第51話 考えすぎていた

「ただいまぁ!」


 映画が中盤に差し掛かる頃、玄関から響くのはいつも以上に元気がいい水瀬の声。


「お姉ちゃん帰ってきた」


「なんかテンション高いな」


 映画を一旦止めると、俺と加菜は顔を合わせる。


「どうする? 聞いてみる?」


「今ここでか?」


「この機会だし、聞いてみてもいいかも」


「いや、やめとこ」


 加菜から提案されるが、俺はダメ出しをする。

 ここで聞いたとしても気まずくなるだけだ。それに、話してくれるかすら危うい。

 加菜にすら言わないということは、俺に話してくれる可能性はゼロに近い。


 もし聞いたとしても、この雰囲気を壊さないように水瀬も話さないと思うしな。

 いつも通りに接すのがいいだろう。


 コクリと静かに頷き合うと、ちょうどその時に部屋のドアが開く。


「ケーキ食べる人~!」


 妙にテンションが高い水瀬は、ノックもしないまま部屋の中へ入ってくる。


「お姉ちゃん、ケーキ買ってきてくれたの?」


「もちろんだよぉ~! 今日はなんてたって親愛なる妹の記念日だからねぇ」


「お姉ちゃん優しすぎでしょぉ~」


 二人は抱き合って頬をすり合わせる。

 水瀬は今、満面の笑みを浮かべているが、それは違和感のない笑顔。

 演じていない笑顔だ。


『元に戻ってる?』


『っぽいな』


 水瀬にバレないように口パクをする加菜に、俺も様子を伺いながら言う。

 俺達が気にしすぎだったのか? いや、にしても水瀬の様子が違いすぎる。


 問題が解決したのだろうか。それにしてもウキウキすぎると思うんだが……全く分からない。


「私、また用事あって家を出るからあとはお二人で楽しんでね」


 加菜から体を離すと、水瀬はどこか清々しい表情をする。


「お姉ちゃん、またどこか行くの?」


「まぁね~。私も今日は外で遊びたい気分なの」


「変に気を遣ってない?」


「お姉ちゃんだからね? 妹の喘ぎ声を聞きたくないっていうのはあるかな?」


「ちょっ……! お姉ちゃん!」


 ニヤニヤと不快な笑みを浮かべる水瀬に、加菜は赤面する。


「あ、あとこれは私からのプレゼント!」


 床に置いていた紙袋を、加菜に手渡す。


「まだ渡してなかったのかよ」


「やっぱプレゼントは当日に渡した方がよくない?」


「……だな」


 水瀬がプレゼントを渡していなかったのも、今日渡すためだったのか。

 どうやら色々と深く考えすぎていたようだ。

 変に心配しすぎていたから、なんか水瀬に申し訳なくなるな。


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