似ているようで似ていない

魚野れん

戻りつつある光の乙女

「何てことを!」


 宇宙船フロイラインのコックピットにプラハトの悲鳴が響き渡る。


「駄目だった?」

「あああぁぁぁぁぁぁ、せっかくの、綺麗な髪が……っ」


 プラハトはコックピットに入るなり、セーレンの姿を見て絶望の声を上げて膝をついた。へなへなと崩れ落ちた乙女の様子を見て、セーレンは失敗したなと思う。

 レープハフトのDNAを元に自然交配された末に生まれたセーレンは、レープハフトと同じハニーブラウンの髪とワインレッドの目を持っている。


 プラハトが壊れそうになるまで愛を注いだ彼を連想させる姿は、彼女が立ち直っていく為には邪魔になると考えたのだ。

 少しでもレープハフトのイメージから逃れる為に、セーレンはその髪を真っ黒に染めたのだった。

 奇抜な色にする案もあったが、そもそも染料の種類が少なかった。結局、試してみたのは植物性の染料がいくつか。最初に取ったその染料は、あまり染まらなかった。なら、別の染料はどうか。そうしてできあがったのが黒髪だった、というわけである。


「プラハトは嫌じゃないの?」

「何がですか?」


 そうとうショックだったのか悲しげにセーレンを見つめてくるプラハトに、疑問を口にした。


「僕、レープハフトにそっくりなんでしょう? 僕だって似てるなとは思うし。そっくりな別人を見て、嫌にならない?」


 一瞬きょとんとした彼女は、くすくすと笑い始めた。


「やだ、セーレン。あなた、レープハフトに似てないですよ」

「えっ?」


 意外な言葉に、今度はセーレンが目を丸くする番だった。立ち直ったのか、プラハトはさっと立ち上がってセーレンの元へ、つかつかとやってきた。


「あなたの目。確かに色は一緒ですが、その形が違います。レープハフトはちょっと猫みたいに目尻がきゅるんってしているんですが、セーレンはすうっとしていてクールです。

 あなたの髪。レープハフトはおいしそうな蜂蜜の色でしたけど、セーレンは落ち着いたハニーブラウンです。蜂蜜紅茶みたいです。全然違います」


 セーレンの頬をそっと撫で、プラハトは笑む。


「ぱっと見は、似ているかもしれませんが、全然違います。あなたは、あなた。だから……あの美しい髪をこんな、でたらめに染めないでください。ああ、本当にもったいない……」


 レープハフトの埋葬が終わってからプラハトは変わった。セーレンのことを、レープハフトの複製として見なくなった。そのことを今、より一層強く感じるのだった。

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似ているようで似ていない 魚野れん @elfhame_Wallen

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