どんぐり飴の思い出

お祭りの夜

 屋台のどんぐり飴。

 赤。

 黄。

 青。

 紫。

 緑。

 キラキラしていて、どれもこれもまるでお星さまのよう。

 いくつか選んで、それでいくらとかだった。

 しゃがみこんでどれにしようかなって。


 屋台のおじさんはニコニコしながら待ってくれていた。


 大事に食べよう。

 どれから食べよう。

 すごく楽しみだった。


 星を閉じこめたような、どんぐり飴の袋ばかりを見ていたのが悪かったのだろう。


「お父さん?」


 気付くとお父さんはそばにいなかった。


 私はわりと子どものころから落ち着いた子だった。

 目立つところで待っていればきっとお父さんは迎えに来てくれると、泣きもしなかった。

 赤い鳥居の下で座っていた。


 夜も更けるのに、鳥居をくぐってまだまだお祭りに訪れる。

 何となく、人波を見ていた。


 なかにはお面をかぶっている人がいる。

 

 白いお面、キツネさん。

 黄色いお面、トラさん。

 赤いほっぺのおさるさん。

 緑のお顔に長いひげ、あれは竜かな?

 アハハ。丸いお目目の狸さんだ。


 いろんなお面の人がいる。


「お嬢ちゃん?」


 急に声をかけられた。

 私は泣き出してしまった。

 青い角のお顔がすごく怖くて。


「あ、ああ、ごめん、ごめん。驚かせてしまって」


 青い鬼の面の人はおろおろ。

 悪いんだけれど、急におかしくなってしまった。


「笑ってくれた。よかった」


 驚かせてごめんね。

 見える子がいるのは久しぶりでね。

 でも、あまり見ない方がいい。

 見えていると分かると連れて行ってしまう……もいるから。


 そんなことをいわれた気がする。


「この飴をあげよう」


 虹色の飴。

 すごくきれい。

 屋台のどんぐり飴のどれよりも。


「ありがとう!」


 って、顔を上げたらもう、あの青鬼さんはいなかった。


 虹色の飴は手元に残っていた。

 何だか急に、それを舐めてみたくなった。

 カラフルなのに、素朴なべっこう飴の味がした。


 そのあとすぐ、お父さんが駆けつけ私を見付けてくれた。


 鳥居の方を振り返ったけど、お面の人たちはもういなかった。


 首を傾げた、お祭りの夜の思い出。

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