私には夢がある

秋犬

私には夢がある

 1955年12月1日のアラバマ州、裁縫師のローザは職場から退勤したところだった。


「じゃあね、ローザ」

「クリスマスまで忙しいけれど、頑張りましょう」


 ローザがバス停を目指していると、1人の少年がローザに近づいてきた。


「クリスマスを満足に過ごせない子供たちのために寄付をお願いします」

「あら、待ってちょうだい」


 信心深いローザはすぐカバンに手を入れる。しかし、その日に限ってローザはそれほど持ち合わせがなかった。


「ああ、これしか渡せないわ。ごめんなさい」

「いいえ、貴女の真心に主もお喜びになるでしょう」


 少年はローザに礼を言い、去った。ローザは温かな心に包まれた。しかし、足を止めていたせいで普段乗るはずのバスに乗り遅れてしまった。


「仕方ないわね、もう1本遅いバスで帰りましょう」


 そしてローザは次にやってきたバスに乗り、黒人専用席に座った。バスは次第に混雑し、白人専用席は満員となり通路に立つ白人も出てきた。そこでバスの運転手はローザを始め黒人専用席に座っている乗客に声をかけた。


「今からここを白人専用席にする。お前らは立て」


 他の乗客は立ち上がったが、ローザは先程の温かな気持ちを踏みにじられた気分であった。ただでさえ有色人種を差別するジム・クロウ法には嫌気がさしていた。座ったままのローザに運転手は語りかける。


「ほら、気軽に譲ってくれよ」

「何で私が立つ必要があるんですか!?」


 ローザは結局席を譲らなかった。


 ***


「貰った金はどうした?」

「教会に放り込んできた」


 ローザの足止めをした時空監査局のシノスとロードは、その後の顛末を知っている。抵抗した彼女は逮捕されたが、これをきっかけにジム・クロウ法への抗議運動が活発に行われていくことになる。


「どの世界でもそうなんだ。自分と違う属性のものに人間は恐ろしく冷酷になる」

「でも、座る席があるだけいいじゃないか」


 シノスの返答に、ロードは黙って次の時代へ時空艇を進めた。

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私には夢がある 秋犬 @Anoni

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