香り立つ紅色
ケロ王
KAC20247 香り立つ紅色
私は、棚の上に並ぶいくつもの缶の中から一つを選び、ポットにひとさじ入れる。
ポットに熱湯を注ぎ蓋をする。
その間にカップにも熱湯を注ぐ。
そうして待つこと数分、カップの熱湯を捨て、ポットから紅く色付いた液体を注ぐ。
カップから花や果実のような若々しい爽やかな香りが立ち上る。
今日のお菓子は、お客さんから頂いたマカロン。
そのあっさりとした風味に合う紅茶として選んだのが、春摘のダージリンである。
自分のお店で出すお菓子は基本的にバターや生クリームを使ったこってりなものが多いため、お茶も夏摘あるいは秋摘のダージリンを出すことが多い。
もちろん、紅茶だけのお客様もいて、その方はやはり春摘を好まれる。
ここまでダージリンだけだったが、私のお店は他にもセイロン、ウバやアッサムなどの種類であったり、アールグレイやイングリッシュ・ブレックファストなどのフレーバーティも揃えている。
しかし、店の一番人気は知名度の高いダージリンだった。
他の品種と比べて春夏秋で風味が異なるものの、春は爽やかなイメージ、夏は芳醇なイメージ、秋はまろやかなイメージと季節感と味のイメージがマッチしているのが大きいのだと思う。
しかし、私が一番好きなのはニルギリという紅茶だ。
この紅茶は癖がほとんどなく、紅茶が苦手と言う人でも楽しめる品種である。
紅茶の癖や渋みといった風味は弱いが、逆に柑橘系のような爽やかな香りが強く、ストレートだけでなく、レモンティーやミルクティーにしても香りが失われることなく、かといって、味が喧嘩することもない。
そんな縁の下から支えるような性質だからこそ、無意識のうちに自分と重ね合わせて好きなのだろうと思った。
でも、今日はマカロンと春摘のダージリン。
マカロンの優しい甘さと甘酸っぱいフルーティーな香りが口の中に広がり、ほんのりと、しかし確かな渋みを含んだ淡い香りが、その口の中に加わる。
そんな幸せなときもすぐに終わり、午後のお客さんがやってくる。
今日も私は彼らのために、一杯一杯心を込めて紅茶を淹れるのだ。
香り立つ紅色 ケロ王 @naonaox1126
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