萩市立地球防衛軍☆KAC2024その⑦【色編】

暗黒星雲

第1話 鈍色(にびいろ)の墓標

「こんな飛騨の山奥に何があるのでしょうか?」

「帝国の遺失兵器を回収せよとの命だ」

「帝国……アルマ帝国の遺失兵器ですか?」

「もちろんだ。750年ほど前に戦乱があった。当時の鎌倉幕府と帝国の連合軍が戦ったのだ」

「750年前というと、元寇ですか?」

「そうだな。当時の中国、元朝は世界一の軍事力を誇っていた。その元朝に入れ知恵をして地球に足場を作ろうとしたのはレーザ星系のレプタリアンだ」

「レプタリアンと言えば、メドギド……」

「アレのご先祖様だ。日本と帝国は古くから親交があった。当時、日本と帝国の間で縁談が進行中だったのだ」

「それを潰そうとした」

「そう。日本と帝国がこれ以上親密になってもらっては困ると」

「なるほど」

「そこでレーザ側は〝悪魔の心臓〟と呼ばれる生体兵器を持ち込んだ」

「生体兵器ですか?」

「ああ。生体パーツを組み合わせた巨大ロボットだ。甲殻類と野獣を組み合わせたような姿をしていたと聞く。そいつは人を喰って魂を取り込み、その霊的エネルギーで駆動していた」

「化け物ですね」

「そうだな。あんな化け物が好き勝手に暴れたら日本は食いつくされていただろう」

「でも、撃退したんですね」

「鎌倉武士と陰陽師と帝国のドールマスターが協力して撃退した」

「ドールマスターも来ていたのですね」

「ああ。獅子の獣人、ザートランド・エレノ……過去の正蔵だ」

「正蔵さまはその時地球に来られたのですね」

「そう、皇室の護衛としてな。あのような戦になると想定していなかったので、正規の鋼鉄人形を持ち込んでいなかったのだ」

「まさか正蔵さまは……」

「ああ。空戦用のリグ・ルーザで戦い戦死した」

「リグ・ルーザ……空戦用ですか」

「背に霊力で浮遊する翼を備えている。飛行機能を持たせるため極めて軽量だ。装甲は脆弱で格闘戦などできた代物ではなかった」

「鋼鉄人形とは別物なんですね」

「そうだ。沿海州方面……当時は永明城と呼ばれていたらしいが、現在のウラジオストク周辺だ。そこから悪魔の心臓が南下し鎌倉幕府中枢を狙った。ザートランドはその報を聞き飛騨周辺で迎撃したのだ」

「リグ・ルーザで」

「そうだな。恐らく、ザートランドに痛手を負わされた悪魔の心臓は苦戦していた元軍と合流しようとして西に移動した。それを迎え撃ったのが長門の国の陰陽師集団だ」

「長門の国の陰陽師……」

「機装院流だな。悪魔の心臓を屠ったのは機装院の当主だった」

「そうなのですね」

「ああ。鎌倉武士の驚異的な奮闘と悪天候による大損害を受けた元軍は撤退した。あの時、悪魔の心臓が博多に侵入していたら日本側は壊滅し九州の北半分は元軍に占領されていただろう」


 ララの説明に最上は深く頷いていた。


「この辺りだ。あそこか?」


 ララが指さした方向、斜面に銀色の何かが突き出ていた。


「あれは……人型機動兵器? 700年以上も土に埋もれて錆びていない?」

「霊力の宿った人型兵器はさび付かない」

「なるほど」

「掘り出してくれ」

「了解しました」


 上空で待機していた重巡洋艦最上が高度を下げる。地表ギリギリまで降りて来た最上から重力子ビームが放射された。リグ・ルーザを覆っていた土砂が宙に浮き、その細身の機体を掘り出した。


「これがリグ・ルーザ……」

「コクピットは頭部だが、見事に潰されているな」


 全長は約12メートルのリグ・ルーザは骸骨に鎧を着せたかのような細身の機体だった。山肌に背を預ける格好で擱座したその機体には、激しい戦闘を経た深い傷跡が幾つも刻まれていた。


「誰も知らない鈍色の墓標だ」

「異国の騎士ザートランド・エレノ……ここに眠る」


 ララと最上はその場で跪き、鈍色の墓標に静かな祈りを捧げ続けた。


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