ラッキーナンバー22番
雨瀬くらげ
ラッキーナンバー22番
席替えに抱く思いというものは人によってそれぞれ違うだろう。新たなスタートを切れる気分転換であったり、話したことがない人と仲良くなれるチャンスであったり、逆にいつも一緒にいる人と離れてしまう悪魔のイベントだったりもする。
俺の場合は、あの子の隣の席を狙う機会だ。あの子というのは無論、あの窓側の一番後ろに座っているあの子だ。
肩よりも少し長めのストレート。背筋を伸ばし先生の話を聞く姿はとても美しく見えた。俺の現在の席は廊下側一番後ろなので、椅子を傾ければいつでも彼女の顔を拝むことが出来る。
「藤野! 先生の話聞いてるか?」
「あ、はい! ちゃんと聞いてます」
突然、名前を呼ばれると本当に困る。下手したら彼女の事を見ているのがバレかねない。もしもバレたら俺の人生は終わりだ。学校に来れなくなってしまう。そして彼女には失望され、周りからは「キモイ死ね」なんて言われるのがオチだ。
「じゃあ、昨日予告していた通り、今から席替えするぞー。くじ引けー」
さあ勝負の始まりだ。だが、うちのクラスのくじはただのくじではない。人並みのくじ運では良い席を勝ち取れないのだ。いわゆる完全ランダムの二重くじ。
やり方はいたって簡単。まずは生徒が順番にくじを引いていく。その引いた紙には一~四十番までのいずれかの番号が書かれている。次に先生がもう一つのくじを引いていき、出た順番に席を埋めていく。つまり、先生の引いた番号と自分の引いた番号が同じ席が次の席だ。
俺の番が来て、教卓の上にある袋から一枚の紙を取り出す。果たして番号は二十二番だった。そしてさりげなく彼女の番号も確認。
「何番だった?」
「十二だよ。藤野君は?」
「俺は二十二」
「近くになれるといいね」
わかってる。これは彼女が僕に気があるという意味のセリフではない。それを理解していても気を抜くとニヤけてしまいそうなので、頬の筋肉に力を入れる。ついでに俺は両手で両頬を叩いておいた。
「そうだな」
俺は自分の席に戻り、全員がくじを引き終わるのを待った。
実を言うと、彼女は幼稚園時代からの友達だった。そんな長い付き合いなのに、なぜ今になって好きになったかは分からない。でも、うん。好きなのだ。好きになったことに理由なんていらないんだ。
「よし、全員引いたなー。先生引いてくぞー」
自然と背筋が伸びて、座席表が書かれた黒板に目をやる。五、十四、九、三十二……とランダムに席が埋まっていく。そして俺の番号「二十二」は二十五番の隣に書かれてしまった。大丈夫。まだもう片方の隣が開いているじゃないか……と思ったのもつかの間。三十九番が書かれた。
俺は机にうつぶせた。またハズレだ……。
「席を変えるのはホームルームの後な」
先生がそう言い、生徒たちはがやがやと荷物をまとめながらホームルームの準備を始める。憂鬱な気持ちのままホームルームを終え、席の移動が始まる。
俺は机の中に入っていた辞書をもって二十二番の席へ向かう。
「おう、藤野。隣じゃないか」
「浅野じゃん」
まあ、隣が浅野だったのは不幸中の幸いかもしれない。浅野はクラスで数少ない友達だからだ。
「俺もいるぞー」
俺と寺岡の話に入って来たのはもう一人の友達の津田だった。この三人は俗に言うイツメンで、あそびに 行くときも大体この三人だ。何だ、彼女が隣じゃないことを覗けば普通にいい席じゃないか。悲しんで損した。
浅野と津田はトイレに向かい、俺が荷物の整理をしていると、トントンと肩を叩かれる。その主を確かめるために振り返ると、荷物を持った彼女が立っていた。心拍数が上がっているのがバレないように平静を装う。
「お、おう。どした?」
「近くなれたね。よろしくー」
彼女は荷物を俺の後ろの席に置きながら、そんな事を言う。
「え、席そこなの?」
「さっき先生が書いてたじゃん。見てなかったの?」
「自分のが発表されてからまったく……」
語尾が小さくなる僕を見て彼女は笑う。
「ひどいなぁ。でもいいじゃん、ぶっちゃけ席は隣同士よりも前後の方が近いんだから」
彼女はそれを言うと、教室を早歩きで出て行った。何だか彼女の顔が赤かったような気がしたが、今の俺の顔はそれ以上に赤いだろうから考えるのはやめておく。
とりあえず今日から22を自分のラッキーナンバーにしようと思う。
ラッキーナンバー22番 雨瀬くらげ @SnowrainWorld
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