色彩のない世界で、虹を見る。
サトウ・レン
色を探して。
色を探しているのです。
色?
はい、ある日、世界から色が消えてしまって。
消えた?
無色の味気ない世界がずっと広がっているんです。だから私は旅に出ることにしました。色を探す旅です。
ふーん、例えばそこに虹があります。見えますか?
ぼやけた孤があるだけです。
赤、橙、黄、緑、青、藍、紫と七色あります。
いつかもう一度、私の見える世界に色が付くことはあるのでしょうか。
私には分かりません。でも。
でも?
私もその旅に付き合ってもいいですか?
いいんですか、会ったばかりの、こんなおかしなこと言う人間となんて。
だって悔しいじゃないですか。
悔しい?
この色彩豊かな世界を共有できないひとがいるなんて。
変わってますね。
でも、嫌、とは言わないんですね。
えぇ、嫌、ではないです。一緒に行きましょうか。
はい。
世界がまた色付いたら、ふたりで写真でも撮りましょうか。
その時は、
その時は?
七色に輝く虹を背景にしたいですね。
そうですね。
えぇ。
あれ? 顔が赤いですよ。
そちらこそ。
えっ、色は見えないんじゃないんですか。
とりあえず言ってみました。でも間違ってはないのでは?
ばれましたか。
では、一緒に行きましょうか。
これから、よろしくお願いします。
あなたと、こんな話をしたことを覚えてますか。だいぶむかしの話ですが。
あれから長い時間が経ってしまったのに、まるで昨日のことのようです。
あの日からいまになっても、見える世界は無色のまま、変わらずです。
でもあなたと一緒になってからは、どうでもよくなってもいました。
そこに虹のように色彩豊かな表情のあなたがいてくれましたから。
ひどいじゃないですか。私を残して、先に逝ってしまうなんて。
あなたがいなくなって、また味気ない生活がはじまりました。
でも前と違うのは、あなたとの思い出のおかげでしょうか。
こうやって眺められる、あなたとの写真もありますから。
眺めていると、色がないのに、色づいて見えるんです。
本当に不思議ですね。これもあなたの力でしょうか。
あなたのいない生活にも、すこしずつ慣れてきて、
またあなたのいるところへ向かおうと思います。
私に残された時間もあと僅かのようですから。
虹を見つけに、あなたのもとへ、いざ……、
なんて、ちょっと気障な台詞すぎますか?
でも色のない私にとってあなただけが、
私にとっての、唯一の色でしたから、
とはいえ、やはりすこし怖いです。
この世界から切り離されるのは。
私を勇気付けてくれませんか?
こっちで待ってるよ、って。
わがまま、過ぎますかね。
凄く緊張してきました。
……虹が見えました。
七色に輝いてます。
気のせい、かな。
あなたに似て、
綺麗ですね。
何よりも。
じゃあ、
また。
次。
。
色彩のない世界で、虹を見る。 サトウ・レン @ryose
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