【KAC20247】色即是空【800文字】

三毛猫みゃー

空即是色

「色即是空、空即是色」


 わしは今とある廃寺へと向かっている。

 ある依頼を受けてのことである。


 何の依頼かだと? 坊主が受ける依頼と言えば葬式などでお経を読む、もしくはアヤカシ退治と相場が決まっておる。


 アヤカシとはなにか、それは簡単に言ってしまえば人の想念、怨念そういった負の感情が集まり固まったものである。いつの頃から存在するのか、そして我らのようなアヤカシを退治するものがいるのかなどはわかっておらぬ。


 アヤカシとはそれすなわち因なり。

 そして我らアヤカシを滅するものは縁なり。

 その因縁を断ち切り、アヤカシを討滅するのがわしらのようなものの定めじゃな。


 わしとて齢80を超えておる。さっさと引退したいものだが、なかなかわしを楽にしてくれぬ。今日は大事な用事もあることだからの、ささっと退治してしまおうかの。


 山奥の朽ち果てた階段を上り、廃寺の敷地に入るとそれは現れた。

 赤い目を爛々と輝かせ、開かれた口からは血の色で染まった誰かの衣服だったもの。既に人を食うているようだの。


 奴は新しい獲物としてわしを食おうと駆け寄ってくる。わしは手の持つ錫杖を割れた石畳ごと地面へと突き刺し印を結ぶ。


「オンキリキリバサラウンハッタ」


 わしの周りに結界が形成されアヤカシの侵入を阻む。

 続いて新たに印を結びながら新たに真言を唱える。


「オンコロコロセンダリマトウギソワカ」


 薬師仏へ病魔、すなわちアヤカシを払ってくれといった感じじゃの。

 真言が効いたのか、アヤカシの姿はドロドロに崩れていき消えた。


 後はこのあたりを清めるだけじゃの。ヴヴヴと懐のスマホが震えたので発信元を確認し電話に出る。


「もしもしママ、今日あけみちゃん空いてる? うん、それじゃあ予約ね」


 どうやら無事予約が取れたようだ。ははは、坊主がキャバクラにいって何が悪い、これぞ色即是空じゃな、この世に不変なものはない、よって坊主がキャバクラに行っても良い世の中に変わっただけの事じゃよ。

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