識別ハンターの日常
龍神雲
第1話 識別ハンターの日常
人が識別できる色の限界はおよそ百万色だという。
その内この世に生を受けて死ぬまでの間に全色に出会う者は少ない。
何せ色は、時代や人の感覚で千差万別に変動し流動する。
新色を採取して登録する生業、識別ハンターになり数十年、新色を見つける機会が減った。青年期とは異なる見え方になり、老年期に突入した今、老眼鏡が必須になったのも一因だろう。
「喜多さん、見つかりましたよ! 新色発見――だと思います……多分」
新人助手のマヤが勢いよく報告したが語尾が怪しい。恐らく自信がないのだろう。
「どれ、見せてごらん」
腕時計型のデバイスに映る色を見れば【不明】と表示されたが、採取されたのは明らかに存在する色だ。
「これはスレートグレイだよ。和名では岩盤色かな」
「そうですかぁ……私のデバイス、壊れてるのかなぁ?」
「それはないだろう」
束の間、デバイスに【スレートグレイ】と表示された。
「なにこれ! タイムラグあり得ない! 期待して損したぁ、新色だと思ったのにぃ」
「ハハッ、次は見つけられるさ」
直ぐに次の採掘場にタイムリープした。次の採掘場は中世イギリス、シャーウッドの森だ。自然豊かな森の景色は老いた体に癒しを与えてくれた。
「おお! 新色発見!?」
刹那、マヤが歓喜した。若いので感情の色が明確なのが少し羨ましい。
「どれ、見せてごらん」
マヤのデバイスを覗けば先程と同じく【不明】と表示されたが矢張りある色で、この森特有の色だった。
「これはロビンフッドグリーンだね。有名な義賊、ロビン・フッドが着ていた服が由来の色で和名だと深緑色だね」
「そうなんですかぁ……」
マヤが落胆した瞬間【ロビンフッドグリーン】とデバイスに表示された。
「もう! このデバイス遅い! ぬか喜びさせないでよね!」
怒るマヤの色合いを何となくデバイスで採取してみれば【
「感情が伴うと読み取りやすいのか」
人の感情は変化が多く、新色発見に繋がる場所になるかもしれない。
了
識別ハンターの日常 龍神雲 @fin7
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