スミマセンスミマセン

白川津 中々

◾️

「スミマセン……パンを……パンをください……」



痩せた男が一人、コンビニに入りカウンターへ皺だらけの紙幣を置いた。肖像はノグチ。数十年前のデザイン。過去に発行された紙幣ではあるものの金は金であり、国内であればサービスの対価として問題なく支払いできるはずであったが、店員である白肌青眼と黒肌黒目のガイコクジンは受け取ろうとはしなかった。



『おいおいこの猿は何を言ってるんだ。お前分かるか?』


『俺のガバケツにデカいのをくれって誘ってるのさ』



異国言語の下品なジョーク。完全な侮辱であるが、男には伝わらない。島国生まれ島国育ち。田舎のナショナリズムに染まった彼はガイコクゴを習得せずに成長しきってしまったからだ。



『猿。さっさと帰りな。ここは俺たち国の店だ』


『せめてEnglishを使えるようになるんだな』


「あ、スミマセンスミマセン。痛い、やめて」




ガイコクジンに追い立てられ男はコンビニから強制退店。ポンプ溢れる店外設置のゴミ箱横に捨てられる。起き上がる事もできない男。その前に一人、黄色のガイコクジンが現れた。




「ア、オマエマタヤラレタノカ」


「あ、Aさん……」


「シカタナイ、マタワケテヤル。コレタベロ」


「あ、ありがとうございます!」




男は差し出された腐りかけのパンを、涙を流しながら貪った。品位もなにもない、動物のように食い散らかす無様さは、文明人とは思えない惨めな姿である。



「オマエ、イイカゲンコトバオボエロ。シヌゾ。ワタシ、サンカコクゴハナセル。オマエナゼデキナイ」


「俺は高卒だから……」


「コトバガクレキカンケイナイ。Communication.OK?」


「そう言いつつ、Aさんこの国の税金で大学出てるじゃん……」


『なんだと貴様、私達の正当な権利を否定するのか。恥晒しの分際で』


「あ、スミマセンスミマセン。ガイコクゴで喋らないで。コワイ」


『うるさい。このマケグミが。この国は変わったんだ。いい加減に適応しろ』


「スミマセンスミマセン。分かりました分かりました」



平身低頭。謝るばかりの男を前に、黄色のガイコクジンは溜息を漏らした。




「オマエ、スミマセンバカリ。スミマセンスミマセン。スミマセンジャスマナイヨ。オマエノジンセイダヨ。チャントコトバオボエロ」


「はい。はい。スミマセン。頑張ります」


「ソウイッテガンバッタコトオマエナイ。マケイヌ、ゴミクズ、ジゴク」


「はい、仰るとおりです。誠に申し訳ない……」



続く説教。男はガイコクジンにカタコトの言葉で罵られ涙する。これがこの国の、国民の姿である。



レーワX年。

この国はガイコクジンに支配されていた。

ガイコクゴを話せない民族は淘汰され、男のように犬以下の生活を強いられる。単一民族として隆盛を極めていた時代は終わり、支配従属の時代となったこの国はいずれ、日、没するだろう。黄金はもはやクソの色。ナンバーワンは地に落ち、最後に残ったのはスミマセンばかりであった。

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