聖女のおまけで召喚されたコトリは早く元の世界に帰りたい
うめもも さくら
第1話 コトリは次期国王にみつかった
とりあえず、まともに取り合わずにこの場を切り抜けよう。
この異世界に聖女ではなく、間違えて召喚されてきたコトリは、そう心に決めてへらりと目の前の美麗な男に愛想笑いを浮かべた。
「いやぁ、この世界のことはよくわからなくってぇ……」
「そうだよね。大丈夫。私が一から全部教えてあげるから」
えぇ……いいよぉ……、なんてまさか口がさけても言えないので、コトリはただ遠い目をするしかなかった。
事実、この男の言う通り、コトリはこの世界についてのことを全く知らない。
そして、彼女は知る必要もないと考えていた。
だって、帰りたいから。
コトリは今すぐにでも元の世界に帰りたいから。
この異世界に召喚されてきたのはコトリを含めて二人。
もう一人は、まさに乙女ゲームのヒロインって感じの女の子。
素直で明るく、心優しい乙女ゲームのヒロインそのものだった。
聖女と言われても納得。
全員が納得の女の子。
そして、なんかたまたま一緒にくっついて来ちゃった感じのコトリ。
その姿はまるで、スーパーでシラス干しを買ったら、ちっちゃいエビが混入してたみたいな感じ。
ヒロインちゃんは優しいから、コトリを邪険にしなかったし、なんなら、同席してた王様と召喚した人も、気まずそうにコトリをみつめて、申し訳ないとすぐに謝罪してくれた。
そして、元の世界に帰れる手はずをすぐに取ってくれると言ってくれた。
全てはコトリの望むまま万事解決のはずだった。
この男が現れるまで。
この男は、前代の王の一人息子。
この異世界の次期国王だそうだ。
今の王は、この男が王の座に立つまでのつなぎだそうで、この世界の全権力はこの男にあると言っても過言ではない。
そんな次期国王様が何を血迷ったか、コトリを気に入り、彼女をこの世界に留めるように国王達に進言した。
本当に余計なことをしやがる、とコトリは心の内で悪態をつく。
けれど、目の前の次期国王は涼しい顔をして、うっとりとコトリをみつめ微笑んでいる。
誰もが息を呑むような美しい微笑を浮かべながら、彼は呟く。
「本当に似ているよね、コトリ。私が昔可愛がっていたピーチュケに」
「誰だよ!?」
コトリは苛立ちと驚きのあまり荒げた声を次期国王にぶつけてしまう。
さすがに怒るか?とコトリがおずおずと次期国王を見やると、彼はうっとりとした表情をさらに深くした笑みを浮かべていた。
それは紛れもなく恍惚の表情だった。
想像以上に変人な次期国王を見たコトリは、顔をしかめ、口元を引くつかせて、項垂れた。
「この異世界は最悪だぁ……」
コトリは元の世界に帰りたい。
そして、明日発売されるゲームをプレイしたい。
この異世界じゃない、もっとキラキラしてときめく乙女ゲームの世界にトリップしたい。
予約だってもうしてある。
受取用のメールももうきてる。
もう、それ見せて店舗で受け取るだけなんだもの。
コトリは元の世界で発売されるゲームのシナリオに思いを馳せながら、天を仰いだ。
コトリは一刻も早く元の世界に帰りたい。
聖女のおまけで召喚されたコトリは早く元の世界に帰りたい うめもも さくら @716sakura87
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