どうかこの信号に気付いてください
達田タツ
The Final Odyssey
――トリあえず――
――トリあえず――
雑音混じりの声はほんの一部しか聞き取れない。
何年も前。
遠い東方の地から発せられる信号を受信したのだ。
見捨てられたはずのこの星で、私たち以外に生き抜いている人間がいるのだと気付いた。
だから旅立った。
毎日トウモロコシばかり食べるしかないような貧弱極まる故郷でも、発つ時は涙にあふれた。
そして私たちは――とはいえもはや、歩み続けるのは私しか残されていないのだが――汚染された大海を越え、荒れ果てた大陸へ辿り着いた。
崩れゆくコンクリートの樹海。
吹きすさぶ砂嵐。
遠く幻影を写す陽炎。
獣の息づかいすら感じられぬ荒れ地を進み続けた。
――トリあえず――
すべてはその信号のために。
意味はどうだっていいんだ。
誰かがいる。
私たちの希望はそれだけなんだ。
▼▼▼
「おお……」
やがて、信号のすべてが私の耳に入った。
なにを言っているのかは、私にはわからなかった。
だが。
この山を越えた先に、信号の発信源がある。
私は登った!
長い旅路に失った命を背負い、苦難に満ちた故郷の月日を偲び、急峻の山肌を這い上がる。
そして。
「あ、ああ……これは」
誰もいない。
誰もいない!
「なんだ、これは」
巨大な盆地が姿を現した。
中央には、朽ちた
とうてい人の生活があるとは思えない、これまでと変わらない風景が広がっていた。
「いったいなんだというんだ……」
信号は変わらず、不明の言語で言葉を繰り返す。
教えてくれ。
この旅路は、何の意味も無かったのか?
私は膝をついて、地面に丸まった。
▼▼▼
どうかこの信号に気付いてください 達田タツ @TatsuT88
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