【KAC20246】ハードボイルドチキンはトリあえず
ほづみエイサク
ハードボイルドチキンはトリあえず
オレはトリの工作員だ。
種族はニワトリ。
確かに体はチキンだが、心はハードボイルドだぜ。
知っているか?
ハードボイルドというのは英語で『hard-boilled』と書く。
つまりは『卵の固ゆで』という意味だ。
ヒナや卵だろうと、そいつが敵だったら固ゆでにして殺してやる。
そんな恐ろしい意味が込められている。
オレはずっとそんな人生――いや、鶏生を歩んできた。
どんな敵がいようと、サラダチキンのような冷静さと淡泊さで殺してきた。
今まで殺したトリの顔も数も、覚えてなんていない。
3歩歩けば忘れてしまう。
そんなオレを、周囲はこう呼ぶ。
『水晶鳥』とな。
片栗粉をまぶされボイルされても、オレの渇きは潤わない。
オレの胸の中に脂肪分は不要。
そのかわり、もも肉には大量に詰まっている。
ターゲットを死亡させるための脂肪分がな。
そんなんだから、オレはよく『食えないヤツ』と言われる。
考え事をしていると、時計塔の鐘が鳴った。
「そろそろ時間だな」
今日は重要な任務のために出かけている。
今回の任務は大仕事だ。
朝日を見るたびに「コケコッコー」と叫びたくなるが、グッと抑える。
ハードボイルドじゃないからな。
ハードボイルドチキンは叫ばない。
むやみに羽を広げないし、バタバタしない。
変に頭を振りながら歩かない。
そうした方がかっこいいだろ?
オレは一味違うのさ。
そうこう考えているうちに、目的地についた。
「さて、待ち合わせ場所はここだったかな」
ある公園のベンチ。
そこがシャモとの待ち合わせ場所だ。
シャモは見た目もかなり黒いが、肉や腹の中まで真っ黒いヤツだ。
正直気は合わないが、腕だけは認めている。
体が黒くて暗闇に溶け込めるのは、正直ズルいと思うけどな!
そんなことを言っていても仕方がない。
さて、そろそろ集合時間だが、全く姿を見せない。
アイツは遅刻癖があるから、チキンと待ってやろう。
しかし、待てど暮らせどシャモもヤツは姿を現さない。
さすがにおかしい。
とりあえず連絡をしてみよう。
オレは懐に隠していたケータイを取り出して、電話をかけようとした。
だが――
あ、携帯の充電を忘れていた。
「あー。これはどうしようもないな」
連絡も
オレとシャモ、二匹の
まあ……
ハードボイルドにな。
カランコロン、と。
近くのカフェに入った。
すると、衝撃的な光景を目の当たりにする。
「「あ」」
なぜかシャモがいた。
しかも巨大なパフェを食べている。
だが、オレはハードボイルドチキンだ。
ここでうろたえたりはしない。
シャレの一つでもかましてやろう。
そう言えば、最後の番は
「おっと、オレが
決まった!
オレとしては満点の挨拶だった。
だが、空気はシラーッと白けていた。
ササミ以上に淡泊な視線が痛い。
シャモは呆れたように頬杖をつく。
「お前はどこまで行ってもニワトリだなぁ。昨日待ち合わせ場所を変えただろ。電話にも出ないし。
まったくお前はダメだな。
頭ん中が透明で空っぽなくせに、やたら思考が固い『水晶鳥』さん」
完全にバカにされている。
さすがに我慢の限界だ。
許せるわけがない。
ここは「コケにすんな―――!!!」と一喝してやろう。
「コケコッコ―――!!!」
あ! 言い間違えた!
この言い間違いはハードボイルドではないな。
正直、かなり恥ずかしい。
「ぎゃははははははははははは!」
シャモは腹を抱えて笑っている。
本当に憎たらしいヤツだ。
オレの顔はゆでタコのように赤くなってしまっているだろう。
今すぐ逃げ出したい。
いいや、ダメだ。
ここはオレがハードボイルドなことを見せしめなくてはならない。
どうせ
オレは1歩進んだ。
狙うなら眉間ど真ん中がいいだろう。
2歩進んだ。
懐に仕込んだ銃に手を伸ばす。
3歩進んだ。
よし、今に見て――――
………………………………………………………………………
……あれ? オレは何をしようとしてたんだ???
全く思い出せない。
なんで銃を握っているのかもわからない。
何かとても大事な決断を忘れている気がする。
まあ、
こんなことはよくある。
だから細かいことは気にしない。
それがチキン流ハードボイルドだ!!!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
落ちが弱いッッッ!!!!!!!!!
ニワトリは飛べないし、ゆっくり落下するから仕方がない!!!
水晶鳥はオススメです!
お手軽に作れておいしいし、胸肉だからヘルシーです
作り方は簡単。そぎ切りした鶏胸肉に片栗粉をまぶしてゆでて、お好みのタレで食べるだけ!
特に暖かくなってくる今の時期にちょうどいいですよ!
【KAC20246】ハードボイルドチキンはトリあえず ほづみエイサク @urusod
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