天童君には秘密がある 7〈KAC2024〉
ミコト楚良
いろいろ(色々)あって、自分の出生を兄は知るの回
「なんで
重め前髪、肩までの黒髪少女は生徒会室に入るなり、兄に食ってかかった。
「
昼下がりのひととき、日差しのやさしい総合校舎東側の生徒会室で
「パパは何も言ってないし!
「彼氏でもない男に呼びすてをゆるしているのか、
兄は眉をしかめた。スポーツ刈りの金色の髪は地毛で、射るような蒼い瞳もカラーコンタクトではない。
「クラスメイトだもん! 呼びすてぐらいするよ!」
「せめて、
「声がおおきゅうございますよ。おふたりとも」
用務員の
この男は、この学園に勤めて長い。
「きょうだい仲良くと、先代さまの御遺言でございますよ」
「そうだった」
兄は、その言葉を胸に妹を守ってきたのだ。
「とにかく、その
(わが妹にちょっかいを出す者は、どんなことになるか思い知らせてやる)
兄の妹への溺愛は、もはや執着とも呼べた。
「
うっとりと、兄は妹をみつめる。
「
ばっさり、
しかし、それが兄のほの暗い愛の炎を、さらに
(たっ、たまらん。つめたい目線っ)
変態である。
「——
つい、
「え」
兄は紅茶のカップを、かちゃんとソーサーにぶつけてしまった。
「
気がついていないわけはないと、妹は思っていた。
「わたしたち、きょうだいじゃない」
「え、ウソ。ボク、
しかし、兄は気がついていなかった。
「左様でございますよ。全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れという男が、亡き先代さまのご意向で坊ちゃまをお連れになってきて、今の御当主さまが、坊ちゃまを養子になさいました」
「え? そうだったの?」
兄は、この年まで気づいていなかった。
「坊ちゃんが自分の出生に気づいたとき、おわたしするようにと、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れから、お預かりしたペンダントがございます」
「ボク、気がついてなかったんだけど」
兄は、ふるえる右手で、それを受け取った。銀のかけらのようなペンダントトップがついている。
「ハァトを半分に割った意匠です。その半分のハァトは、坊ちゃんの本当の家族が持っているんでしょうな」
「——えぇと。まとめると、
「左様でございますね」
がーん。
兄には、天からタライが落ちてきたような衝撃だった。
「まながいもうとじゃない」
「うん。だから結婚もできるよ。
「いや、こちらこそ、けっこうです」
兄は真顔だった。
「赤の他人を愛したら、それはまっとうな愛じゃないか……」
「禁断の愛がよかったんだよぉぉぉ!」
泣きながら、兄は生徒会室から走り出た。
そして、廊下の曲がり角で、どんと誰かとぶつかった。
「あっ、てぇ」
天童が、しりもちをついていた。彼が持っていたトートバックの中身が、辺りに散らばってしまった。
「
「あっ。今日、ピアノ対決の日でしたよね。オレ、『エリーゼのために』練習してきました」
天童は、ぴょんと起き上がった。
どうやら、散らばった楽譜はそれらしい。
「いい心がけだ」
(あれ)
自分のとはデザインがちがっている。ハァトの向きがちがう。それに、自分のハァトの片割れは右手に、ちゃんとにぎっていた。
「それ」
ぱっと天童に取り返された。
「オ、オレの趣味じゃありませんよ? 父ちゃんの形見なんです。ハートの半分なんて、ラブリー過ぎてつけられないから! 持ち歩いてるんです」
銀のかけらのようなハァトの片割れペンダントトップ。
「
〈
天童君には秘密がある 7〈KAC2024〉 ミコト楚良 @mm_sora_mm
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