第12話 赤い花
赤いカーテンにどデカいシャンデリアがぶら下がった大広間にはむさい男がこれでもかと押し込まれていた。
洒落た贅沢な空間が詰め込まれた野郎共のせいで全部台無しである。最高の苺に最高のスポンジを揃えて、最後に腐った生クリームを塗りたくるような勿体なさをハレは感じていた。
部屋の奥に無駄に豪華なデスクと椅子がある。初老の男が座っていた。おそらく彼が『デズモンド』なのだろう。彼のデスクの前にハレはぼんやりと突っ立っている。
「貴様が俺のファミリーにちょっかいをかけたガキか」
「ちょっかいというか殺したんだよ。2人」と指を2本立てる。2人の『2』なのか、マフィアが死んでラブアンドピースの『ピース』サインなのか、あるいはその両方かもしれない。
デズモンドが周りの男共に目配せする。『立場を分からせてやれ』だろうか。1人の大男がのしのしとハレに近づいて来て、ハレの目の前に立った。
大男に重なりすっかり見えなくなったデズモンドの低い声がだけが、大男の向こう側から聞こえて来た。
「話し合いをできる準備ができてないようなのでね。悪く思わないでくれ」
デズモンドが言い終わるや否や、大男がハレの腹にボディブローを入れた。が、ハレはノーダメージであり、攻撃した大男の方が拳を押さえて呻いた。
デズモンドが無言で目を見開き、固まる。
「こんにゃくでもおへそにねじ込まれてるのかと思ったよ」とハレがおへそを押さえてケラケラ笑う。
デズモンドが少し慌てた口調で「は、早く
ハレを囲む男たちは、一斉に武器を構える。50人はいるだろうか。
昼下がりの日差しが窓から差し込み、大広間に不自然な紫色の光が歪んで床に映る。ハレの魔力の粒子だった。
薄く笑うハレに向けていた武器を、男たちは示し合わせたかのように、同時に自分の喉元に向けた。
そして——
ハレを囲んでいた男たちは皆一斉に床に沈み、大量の血を高価な絨毯に染み込ませた。全員が同時に、躊躇いもなく、自害したのだ。
ハレがにっこりと笑みを浮かべて、その赤い瞳でデズモンドを見据える。
「話し合いの準備ができていないようだったからね。手伝ってやったんだよ。綺麗な赤い花が咲いただろ?」
「き、貴様……何者だ……」
「悪魔だよっ」とハレがデズモンドにウインクすると、デズモンドは「あく、ま……」と繰り返した。
「あーあ、碌に耐性もないのに、幻魔術士と室内で殺り合うから、こうなるんだよ。おバカなの?」
デズモンドは未だ何が起きたのか、理解しておらず目を見張って、口をわなわな震わせていた。
やがて慌ててデスクの下に隠されたボタンを何度も押した。隠しボタンなのに、あんなに派手に連打していては隠す意味がない。
「き、貴様の望みはなんだ?」とデズモンドが分かり易く時間稼ぎの質問をする。ハレは、乗ってあげよう、とでも言うように笑って、デズモンドを指差す。
「お前の金」
「か、金ならやろう。どうだ? ワシに雇われないか? 一生豪遊できるくらいの金をやる。良い話だろ?」
「全然良くないから。僕もう仕事したくないんだよね。お前を殺せばタダで莫大な金が手に入るのに、わざわざ雇われる意味なくない?」
デズモンドは金で説得は無理だと、早くに理解する。そして、角度を変えて交渉を続ける。
「な、ならば女はどうだ? 金では買えない絶世の美女をお前に当てがおう」
デズモンドは本気だった。これで落ちる男は多い、と経験上学んでいた。ハレがいかに子供のような姿であろうと15歳には見える。この世界の成人は15であったため、この手の誘惑も有効だと判断したようだった。
——しかし、
「ぷっ……くっくく、あはははははは、あははははははははははははははははっ!」
ハレは腹を抱えて大笑いする。
デズモンドは何が起きているのか理解できず、しかし、理解しようと思考を必死に回していた。
「色欲の悪魔アスモデウスに、女を当てがうとは。ウケるね、おじさん。いったいどんな美女が出てくるのか、ちょっと見てみたい気もするよ」
とは言え、サキュバスクイーンのシホに見慣れているハレを納得させる人間など居やしないのは、分かりきっていることだった。
「まぁ、もう時間稼ぎしなくて良いよ。そこまで来てるから」とハレが言うと、1人の男が大広間に入って来た。
スキンヘッドに片目に眼帯をつけた男は入室早々に、手に持った大剣を力一杯、横薙ぎに振るった。
大広間の窓という窓が全て割れて、ハレの粒子化した魔力が外に流れ出る。
「ふん。魔術師か。つまらん相手だ」と男が呆れた顔でハレを見た。
ハレは楽しそうに口角を吊り上げ、目は三日月型ににんまりと歪んだ。
「この世界で初のまともな
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【あとがき】
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色欲の悪魔としてVRMMO世界に転生しました。ログアウトできないし、せっかくだからこの世界でヒャッホォォウ!します 途上の土 @87268726
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