KAC20246 まあとりあえず

まあ とりあえず

「ありがとうございました先生　いやいやいやプロデューサーも

　喜んでおりましてね　早速　各所との打ち合わせに入らせて

　もらっています　　それで～　またちょっとだけお願いがありまして

　主人公の姑役に決まった　例の大女優さんが　そうなんですよ

　老け役引き受けるの初めてで　十分話題性あるんですが　

　息子役の名前が…　昔噂のあった彼氏と同じで呼びにくいって

　いやいやいや　名前決めるのに先生がすごく考えてられたの

　私は十分　分かってますよお　　　ねえ　６５にもなって　

　別れた男だろうが　殺した男だろうが名前なんかいいじゃないですかね

　えっ　ご存じなかった？　そうなんですよ　彼女６５なんですよ　

　５０そこそこに見えますよね　何やったんでしょうねえ　

　まあまあ　先生にはどうでもいい話でしたね

　まあ　とりあえず　そういう事なんで　お願いします　先生」　

簡単に言って　風みたいに消えていきやがった　この名前がきっかけで二人は

知り合うんだぞ　相手役の名前には亡き父親の思いも込められてるドラマの肝を

〝とりあえず〟　書き直しか～

「ありがとうございます　OKでました　先生さすがです　仕事が早くて

　助かりますよお～　

　ところで　頂いた３話なんですが　主人公の入院の理由がオーバードーズは

　スポンサー的にちょっとと　営業から意見がありまして　いえいえいえ

　スポンサーさんからのお話はないんですけどね　言われてからでは遅いので

　えっ　いやあ～　　車の事故もちょっと…　　

　すみませんね　一社提供ではないので八方にらみしないといかんのですよ　

　正直　疲れますよ

　まっ　とりあえず　そういう事でちゃちゃっと変更　御願いしますよ先生」

とりあえず　とりあえず　って簡単に言いやがって　なおしに何時間かかると

思ってんだよ　とりあえず〝先生〟と言っとけば何でもすると思うなよ

地方ロケはできないからっていわれて　田舎育ちから町育ちに変えたし

視聴者が共感できないって　年齢設定も変えて　

すごい力入れて書いた喧嘩の場面は　主役の女優のイメージに合わないからと

ゴッソリ削られた　　あげくに　親友役の俳優はスケジュールがぶつかって

撮影できる日数が限られてるからあんまり出さないでくれって

まあ　仕方ない　なおしにかかるか

「先生　ほんとすみません　ほら今クール純愛ものがバカ当たりしてるでしょ

　Pがねえ　今からじゃ二番煎じ　三番煎じだって言い出して

　そうそうそう　この業界　柳の下にどじょうは三匹いる　って言いますけど

　あれが　三匹目だって　Pが言うんですよお

　で　スケジュール押さえてあるキャストで　警官コメディって事に…　

　ほんともう　何考えてるんだか　もうもうこれ以上　先生にご迷惑かけません

　以前に持ち込みのあったシナリオで行きますんで　ぶっちゃけライターが

　Pのコレじゃないかって言われてまして　反対もできなくて　すみません

　俺がPになったら　先生！　絶対一緒にいいもの作りましょう！

　今回　先生は一応〝原案協力〟でクレジット出させて頂いてギャラの方も

　僅かですが頑張りますんで…　　

　じゃっ　とりあえず　そういう事で　

　えっ！　先生！　何を…　うっ！　うううううっ！！」

ふっざけんなよ　お前みたいなのがPになったら　この世の終わりだ

役者もライターもゲームのコマみたいに思いやがって

どうだ　コマにしめ殺された気分は　さて

とりあえず　こいつをどこにしまおうか