鳥会えず

つばきとよたろう

第1話

 この町に生まれた宿命として、運命の鳥を見つけなければならない。祖母のアンネイワンが、ソノテツオモイにこの世界の理を教えてくれた。それは難しく半分ほども理解できなかった。話を聞く時はいつも古い暖炉の前に座って、彼女の風が落ち葉をさらってゆくかすれた声に耳を澄ませた。暖炉には常に温泉の蒸気を噴出し、タービンを回すカタコトという心地よい音を立てていた。

 この町に青い鳥はいない。空に溶けてなくなってしまうからだ。斜めになって日差しに角度を付ける荒廃した町には、巨大なビルの間を大樹の枝が浸食して覆っていた。

 アンネイワンとソノテツオモイは、町外れの小さな森に二人だけで住んでいた。彼女らの家までは、長い階段を上らなければならなかった。その時、階段を一つ一つ数えていく。一、ニ、三。百十三段ある。不吉な数字だ。だからいつも間違って数えている。百十二段だか、百十四段だか。

「私たちは、一生掛けて運命の鳥を見つけなければいけないんだよ」

 ソノテツオモイには一生という言葉の意味が、重くてよく分からなかった。

「お婆様はその鳥を見つけられたの? 私はちっとも鳥を見たことがない。鳥になって空を飛んでみたいな」

 ある日、ボロボロの紙屑同然の鳥の死骸が、バタバタと羽ばたいていく夢を見た。

「運命の鳥に会うと、人は魂を取られて元の体に戻れなくなる。鳥の魂と入れ替わるんだ。それを恐れて世界中の鳥を殺してしまった。鳥を殺したら、殺した人間と死んだ鳥の魂が入れ替わることも知らずにね。だから今の人間は元は鳥なんだ。まんまと鳥に騙されたのさ。鳥を殺せと命じた市長は、既に鳥の魂と入れ替わっていたんだよ。それで運命の鳥の魂を持った人を探さなければいけないのさ」

 私の運命の鳥を探しています。

 ソノテツオモイは新聞に広告を出した。未だにその人は見つかっていない。人という生き物がどれほど醜いのか。毎晩の食事にはチキンをかたどったパンが出される。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鳥会えず つばきとよたろう @tubaki10

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ