花、咲かせて(7/8)
惣山沙樹
色
前話
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婚約してからのあたしたちの行動は早かった。両家の親に挨拶を済ませ、会社にも報告をして。桐久の卒業式が終わった翌日、婚姻届を市役所に出しに行った。
「なんか……呆気なかったね。本当に出して終わっちゃった」
そんな感想を桐久は漏らした。
「そりゃあ、書類だけの手続きだからね。でも、これからあたしも藤堂だよ。これから色々大変なんだからね?」
「その負担が梓だけにいくのは悪いなぁ」
「仕方ないよ。けどあたしは嬉しいよ、藤堂さんって呼ばれるようになるの」
問題は結婚式だ。雑誌を買ったり、ネットを見たり。式場はどれもこれも魅力的に思えて、なかなかこれだというところが見つからなかった。二人とも仕事が休みの土曜日、桐久の部屋でパソコンを開き、一緒に探していた。
「本当に親族だけでいいんだよね、梓」
「うん。友達呼ぼうとすると、どこまでも増えちゃうし……」
「じゃあ、やっぱり小ぢんまりしたところの方がいいんじゃないかなぁ……」
桐久が目をつけたのは、邸宅を貸し切って行うゲストハウスウェディングだった。
「ここは? 細かいところこだわれるみたいだよ」
「本当だ。ドレスもここで借りれて、メイクもできて、全部済んじゃうんだ」
それから、ホテルやレストランなんかの見学にも行ってみたけれど、やっぱり一番良かったのはそのゲストハウスで。とんとん拍子に手続きを進めて、ドレス選びの日になった。
「わぁっ……」
ずらりと並んだ綺麗なドレスの数々にうっとりしてしまった。ウェディングドレスの形はずっと前から決めていて、マーメイドラインという大人っぽいものだ。胸元にふんだんに花のレースがあしらわれたものをあたしは選び、今度はカラードレスなのだけれど。ハッキリしたイメージが決まらないままここまできてしまった。
「うう……桐久、何色が似合うと思う?」
「梓は何でも似合いそうだからなぁ。いっそ、端から端まで着てみれば? 試着だけならいくらでもしていいわけだし」
「ええっ?」
まあ、桐久が言うのももっともかな。あたしはまず、暖色系から挑戦することにした。
「赤は……派手だなぁ」
「うん、梓はもっと淡い色がいいと思う」
じゃあ、黄色。
「うーん、可愛いんだけど、これも何か違う」
「寒色系いってみる?」
水色にしてみた。
「おかしくはないけど、しっくりこないかな」
「次いこう、次」
薄い紫。
「ちょっとなぁ……大人っぽすぎる?」
「確かになぁ」
さて……ドレスの着脱にも時間がかかるし、けっこう疲れてきた。桐久を待たせるのも悪い。紫のドレスを脱いで出てくると、桐久が一着のドレスを持ってきていた。
「梓、これは? ピンク!」
「あっ、まだ着てなかったね。可愛らしすぎない? 大丈夫かなぁ?」
「とにかく試してみてよ!」
裾がふんわりと広がったプリンセスライン。白の方は大人っぽいから、ギャップが出ていいかもしれない。そう思いながら袖を通すと……。
「桐久、どう……?」
「いい! 凄くいいよ。梓の肌の色にも合ってるし、今まで見た中で一番いい」
これでドレスが決まった。あとはメイクのリハーサルをしたり、ペーパーアイテムは自分たちで作ったり。歓談の時間を多く作りたいから、派手な演出はなしにして、ガーデンでのデザートビュッフェをメインにした。
当日は天気がとても不安で、桐久と二人でてるてる坊主を作った。
「桐久、今のところ三十パーセントだって。大丈夫かなぁ……」
「オレ、晴れ男だよ? 大事な日はいつも晴れてた。だから心配しないで」
そして、祈りが通じたのか、カラっと乾いたいいお天気になった。
あたしのドレス姿は、親族たちにはとても好評。みんなと何枚も写真を撮って、お料理も美味しく頂いた。桐久はあたしの父にお酒をどんどん飲まされていて、ちょっと心配だったけど、退場の時はしっかりとした足取りであたしと一緒に歩いてくれた。
「はぁ……終わった……」
帰宅して二人ともぐったりだ。あたしは慣れないヒールで立ち続けていたせいか足がパンパン。桐久もさすがにお酒が辛かったようだ。
「梓、夕飯適当でいい?」
「いいよいいよ。カップ麺でも食べよう」
業務スーパーでまとめ買いしていたカップ麺。昼に食べたフレンチのコースとは比べ物にならないはずなのに、どうしてだろう、桐久と食べると美味しく思えた。
「なんかさ、オレ、やっと結婚した実感出てきたかも……」
「まあ、ずっと一緒に住んでて、そこからの結婚だったもんね。今日は一つの区切りだね」
「綺麗だったよ、オレの花嫁さん。で、部屋着でゆるゆるしてる梓も可愛い」
「もう、桐久ったら……」
疲れていたはずだけど、一緒にお風呂に入った後は……けっこう燃え上がってしまった。
次話
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花、咲かせて(7/8) 惣山沙樹 @saki-souyama
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