お料理は楽しい
ちかえ
久しぶりのお料理
鶏肉に塩コショウをしてフライパンで焼く。
料理なんて何年ぶりだろう。そう思うとなんだかウキウキしてくる。ミレイアは鼻歌を歌いそうになるのをこらえながら料理を続ける。
大国の第一王女である自分が料理をするなど、誰も許してはくれなかった。それはミレイアを溺愛している両親や兄でもそうだった。
だったら、何故、今、自分が料理出来るのか。それは外国の学園に留学しているからに他ならない。学園の高等部には家政科がある。なので、調理室もあるのだ。それを、今、少しの時間、使わせてもらっている。
別に独占してるわけじゃない。誰も使わない時間帯を調べて、きちんと教師に頼んで部屋を借りたのだ。誰にも迷惑はかけてない。材料費も私財から出すつもりだし、料理終わったらきちんと片付けもするつもりだ。問題はない。
「で? どうしてついて来てるんですの?」
「面白そうだったから」
この国の王子である友人のネッドの方を振り向いて尋ねると、そんな言葉が返ってきた。
「それに記憶持ちであるミレイア王女が何を作るか楽しみだというのもあるから」
「……あなたね」
完全に面白がっている。ミレイアは呆れたため息を吐いて料理に戻った。別にそんなによそ見はしていなかったので鶏肉は焦げずに済んだ。よかった、とホッとする。
確かにミレイアは異世界からの転生者、こちらでは『記憶持ち』と呼ばれる人間だ。
だけど、今日作るのは故郷の料理ではないし、ネッドが面白がる事は何もない気がする。
ここから追い出す気はないけれど。つい心の中でそう呟く。
焼きあがった鶏肉を先に野菜を漬け込んでおいたマリネ液に漬ける。故郷ならこういう時に使うのはラップだけど、ここにはそういうものはないので、魔術で薄い膜を使って覆ってみる。
魔力、それがあるのも前世にいた世界との違いだ。あそこにはそんなものはなかった。なので、自分がそれを自在に使えるというのは今でも不思議だ。ミレイアとして生まれてから十六年も経つのに。そう思って小さく笑ってしまう。
「もう出来たの?」
ネッドが口を挟んで来た。
「いいえ、まだよ。少し時間をおいて馴染ませないといけないの」
きちんと説明する。納得のいかない箱入り王子様は不満そうな顔をしている。料理は時間がかかるものというのは知らないのだろう。そういうところは新鮮だ。
出来上がるまでの間、不満そうなネッドを誘って一緒にお茶を飲んだ。これは何故か付き添っているミレイアの侍女が淹れてくれた。教師に頼んだ料理以外はやはり自分でやってはいけないようだ。自分だってお茶くらい淹れられるのに、とこちらが不満顔をしたくなる。
そうしてお茶をしていると、いい感じの時間になった。
出来上がったチキンマリネを満足げに眺める。
「『とりあえず、「
ついふざけてそう呟いて笑ってしまう。日本語で言った独り言はもちろんネッドに理解出来るわけがない。翻訳魔術を使ったって細かいニュアンスは無理だ。首を傾げているのがどこかおかしい。
ミレイアはそんなネッドの姿を見て楽しそうに笑った。
お料理は楽しい ちかえ @ChikaeK
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