トリあえず 【KAC20246】

KKモントレイユ

第1話 トリあえず 【KAC20246】

 タケシが友人のアツシにこんな話をした。

「なあ『トリあえず』って知ってる?」

「はあ? 『とりあえず』って言葉ぐらい知ってるよ」

「普段よく使う言葉とは違うよ『トリ』がカタカナで『あえず』をひらがなで『トリあえず』と検索するとヤバいらしい」

「ヤバいって何?」

「さあな、やってみようか」

「でも、ヤバいんだろう」

「怖いか?」

「いや」

 アツシは何が起こるかもわからないのに怖いもないものだと思った。


 結局「やってみよう」ということになり『トリあえず』を検索してみた。すると、画面に『わかりました』という文字が現れた。


「え? なに今の」


 アツシの言葉に首を傾げるタケシ。


 少しして動画が始まった。

 どこかの古い家が映し出された。次に玄関。そして、階段を上がって行く。

 二階に何枚もお札を貼った部屋があり、暗い部屋の中から何かの『目』がこっちを見ている。


 タケシは慌てて画面を消した。アツシも言葉を失った。


「なに、今の。気持ち悪い」


 アツシがタケシの顔を覗き込む。

「大丈夫か?」

「ああ」

 青ざめるタケシ。


 このことは忘れようと話して、その日は家に帰った。


 次の日からタケシが学校を休み始めた。アツシはタケシの家に行ってみた。家の周りに人が集まっている。

 家は立ち入り禁止になって数人の警察官が中を調べているのが見えた。


 集まっている人に聞くと「事件があったようだ」と言う。心配しながらアツシは家に帰った。

 その日のニュースを見てもタケシの家のことはやってない。捜査中ということだろうか、そんなことを思いながらスマホに目をやると見慣れないメールが入っている。消去しようとして操作を誤ったのか何かの動画が始まった。


 血の気が引いた。


 動画には、あの日、タケシと見た古い家が映し出された。

 しかも、その家の中からタケシが呼んでいる。


「こっちへ来いよ」


「なんだよこれ」

 アツシはスマホを放り投げた。


 その時、耳元でタケシの声が聞こえた。


「こっちへ来いよ。トリあえず」

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