幽霊の貴女と紡ぐ物語

Kimika

前編

二年生の神酒緋美香は、親友の岡田美穂と一緒に放課後、桜の下まで来ていた。

「ねえ、ほんとにいるの?」

「うん、いると思う。… …たぶん」

「帰っていい?」

「あと3分だけでいいから居てよ。いいでしょ?」

「… …わかった」







ことの発端は昼休みだ。

一人で本を読んでいた緋美香は目の前に誰かが立ったのに気づき、栞を挟んで本を閉じる。

季節はもう春だ。

(もう一年経ったのか)と思い、下げていた目線を上げる。

親友である美穂が嬉しげな顔をして立っていた。

そして、クラッカーを取り出し紐を引っ張ると

『さあ今年もやってきました!春の幽霊探し!』

『今年は誰がさまよえる幽霊を見つけ、その正体を見ることができるのか!!』といった。

『わあ。だけど美穂、周りに迷惑だからやめな』

『ごめんごめん』

散らかった紐を手際よく回収しながら美穂は言う。

『去年はやっぱり目撃情報は多かったけど、話しかけたりとかはされなかったからね』

『うん、そうだね』

『ねえ、今度こそ私達も行こうよ』

『行かない。行きたいなら一人で行けば?』

『うっ、それはちょっと。でもねえ、今年こそは私達も探しに行こ『いやだ』…なんで~、そうやって去年は行けなかったんだからさ、今年は行こうよ!絶対だからね!!』



… …ということがあり緋美香は渋々了承し、放課後行くことになったが、もともとこういうことは好きではない為、早く帰りたいと思っていた。

「幽霊に会えるかな?」

「いや、会えずに帰れることを祈る」

「え~~、なんで会いたくないの?」

「苦手だから」

「やっぱ幽霊嫌いは治んないか。でももう少しいようよ」

「ヤダ。今さっき3分待ったから帰る」

緋美香は帰ろうとしたが、返事がないのに気づき、不思議に思って振り向いた。

「美穂、どうしたの?」


美穂が何かを見て固まっていた。

その目線の先には、不思議と目を惹かれる、黒髪を腰までおろし、淡い水色のワンピースを着た少女が立っていた。

辺りを見渡すが、他の人は誰も気付いていない。

「幽霊…? 美穂見えてるの?」

「うん、見えてる。この学校の生徒じゃないかな。誰か待ってるのかも」

「さあ、見たことないけど?私もう帰るから」

「え~~待ってよ」

緋美香は帰ろうとしたが、美穂がバックを掴んだまま放さない。

「帰りたいから放して」

「嫌だね、放しません」

「そう言わずに、放してよ!っと」

美穂の手から逃れた美香は、本当に今度こそ帰ろうと背を向ける。

その時『待って』と声が聞こえた。

緋美香は振り向き、その声の発された方を向く。

少女がこちらを見つめながら唇を動かす。

『聞こえるなら、こっちに来て。手伝ってほしいことがあるの』

「っ…はぁ~、私は別にいいけど」

緋美香は答えてから気づく。

(美穂には聞こえてるのかな)

「美穂。姿は見えてるんだよね、じゃあ声は聞こえる?」

「うん、聞こえてるけど。幽霊の声って初めて聞いた!」

(あ、戻ってる、良かった)

(けど、美穂に聞こえてるなら、結構大変かも)

緋美香は幽霊の方を向く。

幽霊は桜の下におり、その姿は少し透けている。

「あなた、名前は?」

『神原茅香』

「ねえ茅香、なんであなたはそこに留まってるの?」

『待ってるのずっと』

「誰を待ってるの?」

『昔の友達、だけどもう見つけた。ねえあなたは困ってることはない?』

「あるけど、なんでそれを聞くの?」

『あなただからよ、緋美香。その体質はまだ治ってなかったみたいね』

美穂の頭の上に?が浮かんでいる。

「緋美香、何の話をしているの?」

「美穂には後で話す。ごめん、ちょっと用事ができたから、先に帰ってて」

「……分かった」

残念そうにその場をあとにする美穂、美穂が離れたところで緋美香は茅香に向き直った。




緋美香には忘れてしまいたいことがあった。しかし、それは『忘れてしまいたい』と記憶にあるだけで、緋美香自身はあまり覚えていない。

それは四年前、小学二年生の頃に起きた。

緋美香は小学一年生の頃から、幽霊が見えるようになっていた。

はじめは驚き、大人や友だちに言ったりしたが、気味悪がられたため、次第に言わなくなった。

そして一年が経ち、その体質になれてきた頃に、それは起きた。

昼休み、緋美香は自分の席で校庭を眺めていた。

『緋美香ちゃん』と自分を呼ぶ声が聞こえ、視線を戻すと、当時仲が良かった子がいた。

『ねえ、緋美香ちゃん。放課後一緒に遊ばない?』

『うん、いいよ。遊ぼう』

緋美香が答えると、その子はそばにいた子と話しながら、離れていった。

『ねえ、どこに行く?』

『えー、なんで聞くの。誘ったんだから誘った人が考えればいいじゃん』

『行きたいところとかある?』

『いや、ないけど。あ、そういえば緋美香ちゃん幽霊が見えるんだって』

『だから、幽霊が出るところに行ってみようよ!』

『大丈夫なのかな?』

『だいじょうぶだって。どんな反応するのかな、楽しみだね!』

『やっぱ普通のところに行こうよ。怖いし』

『別にいいじゃん』

『………分かった』

『緋美香ちゃんにはないしょね』

『うん…』

緋美香は話しかけられた後、すぐに意識を校庭に向けたため、二人の話を聞いていなかった。

話が聞こえていれば、起きなかったことだった。


放課後、緋美香は3人で今回行くところへ向かっていた。

三人が向かったのは、普通の家と何も変わらないが、今は誰も住んでいない家だった。

《ねえ、ほんとにここなの?》

《うん、友だちに聞いたらここだって言ってた》

緋美香は、二人に聞いた。

『なんでここなの?』

『探検してみようって話になったから』

緋美香はあたりを見回し、幽霊が近くにいないことを確認した。

『中入ってみる?』

『ねえ、緋美香ちゃん。早く行こうよ!』


家の中に入った緋美香たちは、しばらく1階を見た後、

階段を登り近くにあったスイッチを押して電気をつけた。

そして、近くのドアを開け、部屋に入る。

そこは子供部屋だった。

ぬいぐるみがおいてあり、壁には写真がかけられていた。

その写真には小学生ぐらいの女の子とその親らしき人たちが、笑顔で並んでいた。

部屋の真ん中に視線を戻す。


そこには彼女がいた。

ぬいぐるみを持ってこちらを見ている。

緋美香は気づき近寄ろうとしたが、二人が気づいていないことを知り、やめた。

二人は気づかずにドアを開け、出ていった。

緋美香は彼女に近寄り、声をかける。

『ねえ、なんでここにいるの?』

《どこに行けばいいのかわからないの。パパとママとはぐれて、ずっと一人》

緋美香はあたりを見渡し、カーテンを開け、窓から下を見る。

窓から見える範囲を探していると、二人の大人があたりを探しているのが見えた。

外に彼女の親がいると知った緋美香は、彼女を呼び『ほら、あそこにいるよ』と教えた。

彼女は《ありがとう、お姉ちゃん》と言い、両親のもとに駆けていった。

緋美香は振り返り、ドアの隙間から覗いていた二人を見つめる。

緋美香と目が合った二人は、階段を転がるように降り、外に飛び出した。

『ねえ、緋美香ちゃん幽霊と話してたよ。怖い』

『やっぱりホントだったんだね。幽霊が見えるんだってことは』

『もう緋美香ちゃんと関わらないようにしよう?幽霊にとりつかれるかもしれないし』

『うん。そうだね』




こうして、緋美香は友達を失くした。

それに加え、緋美香を怖がった二人は、クラスメートや友達にこの事を話した。

その結果、緋美香は気味悪がられ、長くいじめを受けることになってしまった。

緋美香は、一年生のときに体質のことを話した幼なじみの茅香に頼ろうとした。

しかし、その次の日の朝、茅香は事故に遭い死んでしまった。

いじめを受け、頼ろうとした茅香が死んでしまったことで、緋美香が幽霊と積極的に関わる事は無くなり、また、人との関わりも少なくなった。

緋美香は、そのことを思い出さないように、その時の記憶に蓋をした。

そのため、茅香のことを忘れ、『一年生のときに嫌なことが起きた』ということを、うっすらと覚えているという状況になっていた。




緋美香は茅香に向き直った。

「ごめん、その頃の記憶はあまりないの」

『そう…』

「茅香は、なんで私を待ってたの?」

『それはっ、… …ごめんなさい、まだ言えないの。あなたの記憶が戻って、思い出すまでは』

「…わかった」

校門で手を降っている美穂のところに向かおうとした時、緋美香は聞きたいことがあったのを思い出した。

「ねえ、茅香なんで私や霊感がある人はともかく、見えないはずの人に姿が見えてるの?」

『最初は近くを通った人たちに美香がどこにいるかを聞くために、見えるようにしていたけど、最近はそのことすら忘れてしまっていて、そのままだったから』

「もう一個、この後どうするの? 私が見つかったわけだし、私の記憶が戻るまですることがないじゃん」

『ほんとだ。ねえ、緋美香。貴女の記憶が戻るまでの間一緒にいていい?』

「別にいいけど」

『やった!』

「あ、けど姿が見えないようにはしてね」

『分かってるって』

緋美香と茅香は並んで美穂のいる校門に向かった。

「何の話だったの?」

「昔の親友で、私をずっと待ってたんだって。話したいことがあったらしい」

「へー、あれ?木の下にいないけど、もしかしてそこにいる?」

美穂は茅香がいる方を見る。

「見えてるの?」

「半透明だけど。これでも霊感はあるんだよね~。茅香ちゃん、よろしく!」

『よろしくね』

「せっかくだから、一緒に帰ろうよ!」

「いいね、茅香はどうする?」

『私も一緒に帰りたいな』

緋美香と美穂、茅香は並んで歩き始めた。

「どこか遊びに行きたいな~」

「カラオケにでもいこうか」

『カラオケって何?』

「カラオケっていうのはねー…」




朝起きると、緋美香は起き上がって背伸びをした後、ベッドから降りる。

緋美香たちが茅香と出会って、一週間が経った。

「おはよう、茅香」

『おはよー、緋美香。いい天気だね』

緋美香は、クローゼットから服を取り出しながら聞いた。

「今日茅香はどうするの? 土曜日で休みなわけだし、何かすることとかあるの?」

『緋美香たちについていくよ、今日も遊ぶんでしょ?』

「まあ、そうだけど」

着替えが終わり、緋美香と茅香は部屋から出て、階段を降り始める。

『今日は何するの?』

「秘密です」

階段を降りリビングに出ると、母が朝食を作っていた。

「おはよう、母さん」

「おはよう、もうすぐできるよ。顔洗ってきな」

『おはようございます』

「茅香ちゃんもおはよう、なんか食べる?」

『フルグラ食べたいです』

「おっけー」

茅香の声にも答える母。母も勿論霊感があり、茅香が見えている。

緋美香の母は神社で働いており、地域の皆から慕われている。

そして、茅香にも食べられる食事を作ることができる。 (↑ツクリカタ フメイ)

「いつもごめんな、今日もよろしく」

机の上にあるミサンガを緋美香の右手首に結びながら言った。

「いいよ、楽しいし。それに、人との関わることのリハビリにもなってるし」

「なら良いけど」

「今日は誰の所に行けばいいの?」

絢瀬あやせさんの所だね、あとはテキトーに」

「りょーかい」

母は、茅香の分の朝ごはん(フルグラと豆乳をコップに入れただけのもの)と

作っておいたフレンチトーストをテーブルに置く。

「「『いただきます』」」


朝ごはんを食べ終わった後、緋美香は小さいカバンを持って外に出て、歩き始める。

「何をするの?」

「人助け」

『具体的に』

「簡単に言えば何でも屋みたいな感じで、困っている人のところに行って助けるってだけ。難しく言えば、この巻いてあるミサンガは認識阻害になってて、つけている人が誰か判らないようにしている。理由は、『困っていること→幽霊関係の事がほとんどになるから、ばれたらあのときのようになる』って聞いたけど、よくわからない」

『へー』

「あの人隠し事多いからなー、なんかよくわからないんだよ。あっ、着いたよ」

緋美香と茅香は一軒家の前で足を止めた。

「ここが絢瀬さんの家だね。さすが医者の家系、家がでかいね」

緋美香はインターホンを鳴らす。

「こんにちは、瑞葵さんの使いの者でシャルと申します。絢瀬さんはいらっしゃいますか」

《こんにちは、奥様ですね。お呼びしますのでどうぞお上がりください》

少し待っていると門が開いた。

「すごいね使用人までいるのは、初めて見るよ」

『私も。それで緋美香、なんで”シャル”なの?』

「緋をドイツ語でシャルハロートって言うから、最初の文字を取ってシャル」

『バレない?』

「金髪碧眼でシャルって名前の人は多いと思うよ」

ついでに、瑞葵は緋美香の母の名前である。


門を越え、中に入り、敷地内を進む。

「こちらでございます。どうぞお入りください」

「ありがとうございます」

使用人に案内され一つの部屋に着き、中に入る。

「ようこそ、シャルさん。座って下さいな」

緋美香と茅香は向かいの席に座った。

「こんにちは」

「来てくださってありがとうね。貴女には頼みたいことがあるの」

「頼みたいことですか?」

「ええ、そうよ。探しものをしてもらいたいの。この前主人が失くし物をしたみたいでね、心当たりのある場所を隈なく探したけど見つからないらしいの」

「失せ物ですか。どのようなものですか?」

「代々この家に伝わる物らしいけど、絢瀬家は男系だから私はよく知らないの」

「旦那様は先程、急患で病院に行かれました」

絢瀬さんの後ろにいた使用人が言う。

「主人が帰って来るまでお茶でも飲んでいましょうか。先日、良い紅茶を見つけたのよ」

「ありがとうございます」

緋美香はお礼をいい、出された紅茶を一口飲む。アールグレイである。

「シャルさんはどちらからいらっしゃったの?」

「生まれは英国で、今は日本に住んでいます。日本は色々楽しめるものがあるので」

『嘘だよね?』

『半分あってる。イギリスで生まれて8歳の時に日本に来た。英語も喋れる』

『へえ~、知らなかった』

「お話中失礼します。旦那様がお帰りになりました」

室内に居た使用人が言う。なんで分かる?

「こちらにお通しして」

「かしこまりました」

使用人が伝えるために部屋から出ていく。

「それでそんなに日本語がお上手なのね」

「そうですね。私はよく買い物をするのですが、日本語で話しているとよく驚かれますね」



そんなとりとめのない話をしていると一人の男が室内に入ってきた。

「お帰りなさい、あなた。こちらはシャルさん、探し物の手伝いをしてくださるわ」

「こんにちは、シャルさん。妻がお世話になっています。今日はよろしく」

「こんにちは、こちらこそよろしくお願いします」

帰ってきた主人は、絢瀬さんの隣に座ってこっちを見る。

「今回、失くした物はこの家に代々伝わるお椀です。手のひらサイズで色は濃紺、縁に金箔が貼られています。どうか見つけていただけないでしょうか」

主人は言い終えると同時に頭を下げた。

「顔を上げてください。これから探してみるので、案内をお願いします」

緋美香は立ち上がり、主人の前に行き、目を見て言う。

「ありがとう。咲葵さき、一緒に来るか?」

「私も行きます、私だのんびりしているのは嫌なので」

3人(4人)は部屋を出て、歩き始める。

「シャルさんは、どうしてこの様な事を始めたのですか?」

「私が日本に来た頃、瑞葵さんに助けてもらったことがあって、私も誰かを助けることができたらと思い、始めました」

「瑞葵さんは、お優しいもの。私も瑞葵さんとは交友関係で、今回シャルさんを紹介してくださったのも瑞葵さんですね」

「そうか、瑞葵さんの紹介なら頼もしいな」

絢瀬さんと主人は笑い合う。

『ねえ、緋美香。瑞葵さんすごく慕われてるね』

『そうだね、私もびっくりしたよ』

『それで、どうやって見つけるの?』

『まずは最後に見たところに行ってもらいます』

「御主人、お椀を最後に見た所はどこですか」

「ああ、今ちょうど着いたとこだよ、ここで最後に見たんだ」

「庭,ですか」

緋美香たちが着いたのは大きな中庭だった。


あちこちに植物が植えてあり、特に庭の真ん中にある大きな木が目立っている。

「中央の木は、樹齢100年以上の松でね。曾祖父が生まれた時に植えたらしい」

「すごい大きいですね」

「これからどうやって探すんだ?」

「見ててもいいですが、少し離れて下さい」

緋美香がそう言うと、二人は居た場所から少し離れた。

『緋美香、どうするの?』

『今からやるよ。次に目を閉じて深呼吸します』

緋美香は言いながら目を閉じ深呼吸をする。

その後ゆっくりと目を開け、辺りを見た。

『ここにはない』

『緋美香、どうしたの?』

『ここにはない』

そう言うと、緋美香はまた目を閉じ、少し経ったあと目を開けた。

そして、離れている二人を呼んだ。

「御二方、残念ですがここにはありません。他に気になる場所はありましたか?」

「そうか、ここにはないのか。それに、他に気になる場所なら一つだけ心当たりがあるな。こっちだ」

「ここにはないのですね。一体どこにあるというのでしょう」

主人に心当たりがあるという場所に案内してもらいながら、茅香に説明する。

『さっきは答えられなくてごめん、ちゃんと説明するね』


『今さっきのは、動いて探すのが面倒くさいからやり始めたんだけど、ここにいる霊の目を借りてみたの。霊は大体何処にでも居るし、私達と違って物体を透かして見ることができるからね。便利なもんよ。だけど欠点があって、その状態の時は受け答えが出来なくなるの。出来なくなるっていうか、難しくなるのかな。さっきはここにはあるのか,ないのかでしたから、言ってたのも『ここにはない』みたいなのでしょ』

『その通りだけど、緋美香、本当に大丈夫なの?』

『大丈夫だよ、もうしないし』

『え、なんで?』

『茅香、貴女が代わりにしてくれたら、その心配もなくなるし、何もしないのは暇でしょ』

『暇だったけど、やるとはまだ決めてないよ』

『人助けはお嫌いで?』

『あ~もう、やるよ。緋美香にこれ以上負担をかける訳にはいかないからね』

『ありがとう』

「シャルさん、着きました。ここが心当たりのある場所です」


主人の言葉に意識を戻した緋美香は、部屋の中を覗く。

物置部屋についたようだ。元々ここにお椀など大事なものをおいていたのだろう。

『茅香、探してみて』

『おっけー』

緋美香は茅香に探すよう頼み、茅香が探している間に、話を聞く。

「なぜここに来たのですか」

「最後に見た場所にないということは、戻したか、別の場所にあるかの二択になると思ってね。先にここに来てみたんだ」

「そうなんですか」

『緋美香、あったよ』

『お、ナイス。さすが茅香探すのは得意だね』

緋美香はあたりを見回して見つける。

「主人、これですか?」

そう言って、緋美香が主人に拾い上げたものを見せた。

「え、どれ? って、これだよ!これ!!良かった。見つけてくれて本当にありがとう」

「こちらこそ見つかってよかったです」

緋美香の手に乗っているものを見た主人はとても喜んだ。

「これが家宝ですか。あら、見覚えがあります」

「もちろん、見たことがあるはずだ。なんせこれは咲葵、お前が僕にくれたものだからね」

「あっ、そうでした。でも、こんな物のためにここまでしてくださるのですか」

「こんなものとは何だ、私にとっては家宝に等しいものだよ」

「あなた…」

「咲葵… …」

『なにこれ、茶番か何かなの?』

『茅香、そういうことは言わないの』

『だってこれ、見てて口の中がすごく甘くなるよ』

『そこには同意するけどさ』

手を取り合って向かい合っている二人に緋美香は言う。

「すみません、先に後の話をして貰ってもいいですか?」

「あっ、すまないね。少し待っててくれ、準備をしよう」


主人が準備をしに部屋を出ていく。

『緋美香も結構スパッと言ったね』

『あのままだと話が進まなくなるからね、必要事項だよ』

『まあ、いっか』

咲葵が緋美香に問いかける。

「シャルさん、どうやって場所がわかったのですか?」

「すみません、あまり言えないのです」

「そこをなんとか」

「すみません、できません」

緋美香は踵を返し、部屋を出ていこうとした。

「無理ではないんですよね、だったら教えてください!」

そう言って、咲葵は緋美香の右手首を強く掴む。

『緋美香っ』

『茅香、飛んで』

『えっ、なに?! ……わかった!』

「シャルさん、こちらだよ」

主人が部屋に戻ってきた。

「御主人、報酬は瑞葵に送って下さい」

そう言うと、緋美香はその場からいなくなった。

「え、っあ、はい。わかりました」


主人は返事をした後、咲葵に尋ねる。

「一体どうしたんだ?シャルさんはいなくなるし、瑞葵さんに報酬を送らないといけなくなるし」

「分かりません。なぜ居なくなったのか、どうやって見つけたのか」

「教えてくれなかったのか?」

「はい、言えなかったようです。聞けていたらと思うと…」

「見つからなかったと言われただろう。もう諦めなさい」

「せっかく、手掛かりをつかめると思ったのに…」

そういうと咲葵は泣き始める。

「気持はよく分かるが、迷惑をかけるのは良くないよ」

「ですが「私達は残されたんだ、それでもういいだろう?」」

主人は咲葵の肩に手を置き、目を見ながら言った。

「誰か、咲葵を部屋に連れて行ってくれ」

「かしこまりました」

部屋の外にいた使用人が咲葵を部屋から連れて行った。

「何処に居るんだ」



「危なかった」

『なんで、急に飛んでって言ったの?』

「このミサンガは、結び目の上を触られたら、認識阻害が切れるようになっているの。さっきはそうなってしまったから、バレる前に飛んだんだけど、バレたかな?」

『多分バレてないと思うけどね』

「ならいいや、終わったってことにして、帰りますか」

緋美香はミサンガの結び目を解き、右手の上に乗せた。するとミサンガは、端のほうから消えていった。

「やっぱり、これどうなってるんだろ」

緋美香は家に向かって歩き始める。

『ねえ、飛んでって言われたから、反射でしたけどさ。

 私はいつ瞬間移動みたいなことができるようになったの?』

「茅香がうちに来てから、色々食べてたじゃん。母さんがそれのせいだって言ってた」

『私今どういう存在なの?』

「聞かれてもわかんないけど。てか、もうあの人意味わかんない。ミサンガや茅香のことも

 分かんないけど、なんか昔の写真見ても今と全然変わってないし、昔のことを聞いても答えてくれないし、何なのあの人は」

『大変だね~、もう私も分かんなくなってきたよ』

交差点に着いたら赤だったので止まる。


ぼんやり向こう側を見ていると知ってる人がいた。

「あ、美穂だ」

『本当だね。あ、気付いたみたいだよ』

美穂を見ていると、あちらもこちらを見ていたのか、大きく手を振ってきた。

「恥ずかしいからやめてって、前にも言ったんだけどな」

『別にいいじゃん、面白いんだし』

信号が青になり、周りが動き出す。

緋美香がその場で止まっていると、美穂がなめらかに人の間をすり抜けてやって来た。

「やっほー、緋美香。どこ行ってたの?」

「ちょっと野暮用。ちょうど家に帰る所だから

寄ってく?」

「行く行く、今から行こうと思ってた」

緋美香と美穂は交差点を渡り始める。

「今日は1日中親が居ないから、暇だったんだ~」

「そうなんだ」

「あ、そういえば緋美香。茅香は居るの?」

「え~と、正直に言いますと、いま美穂の後ろに居て頭の上に指を立てて、ふざけています」

『なんで言うのよ』

「何しているのかな?」『何もしていないです』

交差点を渡り終えたので、ゆっくりと歩き、茅香は美穂にも見えるようにした。

「今何時だっけ」

「11時だね、お腹空いたね」

『早く帰ろ、瑞葵さんに聞きたいこともあるし』

「じゃあさ家まで競争しようよ。よーい、どん!!」

「いきなり何を、って早いよ!!」

『ちょっと待ってよ~』

美穂がいきなり走り出す。

美香と茅香は、その後ろを追うように、そろって走り出した。

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