【KAC20246】恩返しはトリあえず最後まで!

あばら🦴

恩返しはトリあえず最後まで!

 むかしむかしあるところに、おじいさんは山で柴刈りをしていると、罠にかかっている鶴を見つけました。かわいそうだと思ったおじいさんは罠を外して鶴を助けてあげました。


 その夜、おじいさんの家に、旅の途中で迷ったという娘が訪ねてきました。優しいおじいさんは困っている娘を中に入れて、泊めてあげると言い、食事も振る舞いました。


 食事を終えた娘は「決して覗かないでください」と言って別室に入り、襖を閉めてしまいました。そして部屋からは何やらガシャガシャと音がします。

 覗かないでと言われたものの、気になったおじいさんは、好奇心に負けて覗いてしまいました。


 すると中では、鶴が自分の羽根で機織り機を使って布を作っているではありませんか!

 おじいさんに気づいた鶴は言いました。


「私は助けていただいた恩返しに来ましたが、姿を見られたからには去らなければいけません」


 鶴は製作途中の布を残して、空へと飛び立ってしまいました。





 が、鶴が空から戻ってきました。


「どうしたんじゃ?」

「すみません、やっぱりやりっ放しは嫌です。私のプライドが許しません」

「いや……いいけど、勝手じゃのう」


 別室に入った鶴は早速作業に取り掛かりました。


「早く済ませたいので、とりあえずで終わらせますよ」

「おぉ、トリだけに。トリあえずってところかの」

「うるさいです。黙っててもらえませんか?」

「ワシの話も取リ合えず、なんじゃのう」

「うるさいって言ってますよね?」

「それにしても、あんたはどうして去っていくんじゃ?」

「私たち種族のルールなんですよ。本当の姿を見られたら去らなくてはいけません。しかし、やりっ放しはどうしても嫌で……」

「なるほどのう。ルールかこだわりかどっちを取るかで、結局取リ合えずにトリあえず終わらすことにしたんじゃな」

「さっきからなんなんですかソレ? めっちゃうるさいんですけど」

「だってのう。もう会えないと思っていたからのう。しかし、これが終わればもう会えなくなるんじゃな。トリと、もう……」

「……?」

「…………」

「……ちょ、なんで私に言わそうとしてるんですか!? 言いませんからね、絶対!」

「言ってくれてもいいじゃろ? ワシ最後の、大トリのトリあえずじゃったのに。大トリ、逢えずじまいになったのう」

「無理やり行った! 無理やり行ったよ、この爺さん!」

「ところで、話は変わるんじゃが、布の柄でやって欲しいことがあるんじゃよ」

「……なんですか?」

「布の下側にワシと、布の上には飛び立つあんたを描いてくれ。記念にしておきたいんじゃよ。もう会えなくなる、ワシらを描いて欲しいんじゃ」

「はぁ。柄モノはめんどくさいですが、分かりましたよ」


 そうして、おじいさんのリクエスト通りのものが出来ました。


「これでどうですか? 結構いい出来でしょ? じゃあ私、行きますね」

「ありがたいのう。ワシの提案通りじゃ。今後あんたに会うことの無いワシの図じゃ。名付けるなら、トリ会えん図じゃのう」

「……やられたっ!」



 その後、おじいさんはその出来事を表す俳句を唄いました。


 トリあえず トリあえずトリ トリあえず


 意味:話の取り合えない鳥が、規則か自分のこだわりかどちらを取るかで取り合えなくて、とりあえずで済ませたのであった。


 おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC20246】恩返しはトリあえず最後まで! あばら🦴 @boroborou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ