トリは世界を救う?

羽間慧

トリは世界を使う?

 休日の朝は、電線に止まるスズメが癒しのメロディを奏でてくれる。それを聴きながらランニング前にストレッチするのが、俺のルーティンだった。


 今日のコーラスは、いつもと違うメンバーが混じっていた。


「ナントカ専用って、響きが良いと思わない? ほかはカーキ色のモビルスーツなのに、一人だけ赤にしてさ。ボクも専用のものが持ちたいよ。あ、ボクの名前はトリね。漢字じゃなくてカタカナでトリ。分かりやすいでしょ」


 そいつはオウムのように、人の言葉を話した。スズメよりふっくらして、腹にフクロウのような模様がある。眉毛の形が平安貴族を思わせるせいで、どこか貫禄を感じさせた。


 青い飾りをつけた首輪は、金持ちに飼われている証拠だ。見つけた報酬として、転職するまでの資金援助を願いたい。まずはこのトリと仲良くなって、逃げられないようにしないとな。


 なるべく自然な会話を心がける。


「確かに専用は憧れるよな。だけど、一羽だけ違っていたら反感を買うぞ。あのトリだけずるいぞって」

「烏合の衆は、そういうときだけ都合良く圧を作るんだよね。ああゆうの、どうにかならない? 這い上がって来たら良いだけの話なのにさ」

「無理無理。専用はあきらめて、称号はどうだ? 叡智なるトリ、眠れるトリ、荒野のトリ、とか」

「良いね! だけど大した名前はいらないよ。この羽根ペンと紙がある限り、ボクはどこまでも旅ができる。果てしない空想の旅が」


 トリは脇から紙を取り出した。どこぞの四次元ポケットみたいだな。


「分かったよ、ボクにしかないもの!」


 勢い良く羽根ペンを走らせる。曰く「トリの力で暗黒世界を救えました~聖獣には平伏せずにはいられません~」と。


「名作になる予感しかない、新作ネット小説のタイトルだよ! 略称は、トリあえず。カッコイイでしょ」

「『とりあえず生!』みたいに言うな! そんなエタりそうなタイトルより、俺の方がマシなの書けるぞ」

「失礼な! スランプだとか、仕事が忙しいからって、アカウント動かしてないくせにぃ~!」

「未公開が多いだけで今も書いてるわ!」


 苦節十年は超えているが、入賞作品は出している。


 何となくだけど。今走ったら良いネタが浮かびそうだ。

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