トリあえずやって
仁志隆生
トリあえずやって
とある町のとある家。
パソコンに向かってブツブツ言いながらマウスをクリックしているややギャルっぽい女子高校がいた。
とりあえずポチポチ。
うん、応援も星も入れた。
あ、これほんとに面白ーい。応援コメントしよーっと。
「ふう、これだけすればうちのも読んでくれるかなー? ぜってー面白いのに誰も来ないしー」
彼女はどうやら某小説サイトに投稿しているようで、まあアレだ。
星爆相互評価狙いしているようだが……。
翌日の夕方。
近所の公園のベンチに座り、スマホでサイト見ていたが……。
「ううう。やっぱこういうのはダメだよねー」
殆ど反応なしだった。
まあ、ダメだと思うだけマシだろう。
「ううう、どうやったら読まれるのよー? あ、いっそ×ですっぽんぽん画像でも出してお願い」
「したらBANされちゃうよ」
「ギャアッ! って、あ」
彼女の隣にいつの間にか小学校低学年くらいで白いシャツに赤いスカートという服装の少女が座っていた。
「ごめんなさい、脅かしちゃったね」
少女が可愛らしい笑みを浮かべて言う。
「う、ううんいいよ。はぁ、お嬢ちゃんの言うとおりだよねー」
彼女がため息をつくと、
「ぬふふふ、トリあえずこれあげる」
少女がそう言って取り出したのは、白くて大きな鳥の羽だった。
「なにこれ?」
「これをおでこにつけて投稿したらいっぱい人来るよ」
少女はまた可愛らしい笑みを浮かべて言った。
「ああ、純粋だ眩しいわー、それに比べてあたしは汚れまくって……ううう」
彼女は涙目になって項垂れた。
だからそう思うだけマシだ。
「信じられないだろけどトリあえずやってみて。お話のストックあるんでしょ?」
「え、あ。うん」
なんで知ってるのかな?
まあいいや、今夜出す予定だったのを。
彼女は額に羽をやりながら、スマホで作品公開した。
すると……。
「え、もう読まれてる!? しかもレビューや応援コメントも!」
最初の一つが導火線になったのか、その後もたくさんの応援や星、感想が入っていった。
「うわ……」
「よかったね。あ、そうそう。それあんまり使いすぎないでね」
「え、うん分か……あれ?」
いつの間にか少女はいなくなっていた。
「もしかしたらあの子、神様だったのかな? うん、ありがとー!」
彼女は夕焼け空に向かって手を振りながら礼を言った。
その後、彼女は書きあがる度に額に羽をつけて投稿していたが、いつしか羽をつけなくても人が来るようになっていた。
そんなある日の夜。
彼女は自室で作品の感想を見ては返事をしていた。
「たまに手厳しい意見も来るけど、参考になるからありがたいよねー」
そう言いながら休憩にとスマホで×を見てみると、
「ん?」
とある記事が目に入った。
それはどうやら家族が行方不明なので情報をと拡散希望しているものだったが、
「って誰も拡散してないってどーいう事?」
彼女がそう言いながら確認してみると、それは……。
「あ、気付かなかった。この人最初にレビューくれた人だ」
どうやらフォロワーにはなっていたものの、会話はしていなかったようだ。
「うん。羽のおかげでもあるけど、この人のおかげでもあるよね。よっし」
彼女はとりあえずそれを引用し、確認希望を訴えたが、
「うえええ、なんでよー?」
全然反応なしだった。
そこで付き合いのあるフォロワーにDMしてお願いしてみるとその一人から、
『やめた方がいいよ。だってそいつが酷い事したから逃げたのかもなんだから』
という返事が来た。
「え? あ、そうか。そういうパターンもあるんだ」
けどこの人がそんな事するはずないじゃない。
だってこんなあたしを応援してくれてるし……そうだ。
彼女は机の引出しにしまっておいた羽を取り出したが、それはすっかり黒ずんでいた。
「最初は汚れたのかなあと思って洗ってみたけど、落ちなかった。だからきっと使っていくうちになんだろなって。そして」
もう白い部分は根元の僅かな部分のみ。
今までの具合からすると、たぶんあと一回使うとお終いなんだろな。
だからどうしてもという時にって思った。
てかこれ、引用でも効くのかな?
ううん、悩むよりとりあえずやってみよっと!
彼女は額に羽を当て、件の記事を再度引用すると……。
「やったー! どんどん拡散されてるわー!」
あっという間に広まっていき、いくつかの有力情報も返信されてきた。
「よかった……あ、あれ?」
彼女が自分の視界がグルグル回っていると感じた時、その意識を閉ざした。
「だから言ったのにー」
可愛らしい声がしたので目を開けると、そこには。
「あ、あの時のお嬢ちゃん……ってここどこ?」
彼女が辺りを見回すと、そこは真っ白で何もない場所だった。
「うーん、死後の世界かなあ?」
少女が首を傾げて言う。
「え……あ、あたし死んじゃったの?」
「そうだよ。あれ、命削って効果出すものだし」
「だったらそう言ってよ!」
「最後まで使わなかったら大丈夫だったの。だから使いすぎないでねって」
「そうだったの……けど、最後に人助けできただけマシかな」
彼女が項垂れて言うと、
「できてないよ」
少女がそう言って頭を振った。
「え、どういう事よ?」
「あれ見て」
少女が指した先には、映画館のスクリーンのような大画面があり、そこに映っていたのは……。
「え?」
殺人事件のニュースだった。
その犯人は妻を虐待していて、妻はなんとか逃げたものの、×で拡散されてしまったが為に見つかってしまい、連れ戻されて殺されてしまった。
そして、犯人は……。
「そ、そんな……。あの人だったなんて、嘘だ」
彼女が震えながら言う。
「お姉ちゃんが余計なことしなければ誰も死なずに済んだのに」
少女がやや責めるように言うと、
「……ごめんなさい、あたしがバカだった。ちょっと良くしてもらったからって、疑わなかった、うえええん」
彼女は謝罪の言葉と同時に、その場に突っ伏して泣き出した。
「お姉ちゃんも悪いけど、もっと悪い奴がいるよ」
少女が彼女の頭を撫でながら言う。
「え? あの人の事?」
「違うよ。お姉ちゃんがあたしをそうだと勘違いした奴だよ」
「……え、じゃあお嬢ちゃんは何?」
彼女が顔を上げて尋ねる。
「なんでもいいでしょ。それよりさ、もうこんな事がないように力貸して」
「え、力を貸すって、どうすればいいの?」
「トリあえずあたしの手を握って」
「う、うん……って、ええっ!?」
その手を取ると、彼女は少女に吸い込まれるように消えた。
「ぬふふふ……トリあえずお姉ちゃんみたいないい人を騙したあいつを焼き鳥みたく串焼きにしてあげるね~」
少女は胸に手をやった後、どこかへ歩いて行った。
トリあえずやって 仁志隆生 @ryuseienbu
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