彼方の島の鳥のトリ
季都英司
二つに別れてしまった島で鳥とふれあった日のお話
ある日僕は小鳥をひろった。
本当に小さくて赤と青の羽が綺麗な鳥だった。
ぴよぴよとかわいい声で鳴いたものだから、僕は一瞬で心を奪われてしまったんだ。
たぶん、木の上にある巣から落ちたんだろう。
生まれたばかりの小さな鳥で、しばらく遠くから見ていたけど、結局いつまで待っても親鳥は来なかった。
小鳥はこのままだと簡単に死んでしまいそうだと思ったけど、親鳥がきたらまずいから家には連れて帰らずにそこで育てることにした。
まず小鳥を巣に戻してあげて、そこらの虫を捕って餌をあげてみた。小鳥は可愛く鳴いておいしそうに虫を食べていた。僕はすっかり小鳥のとりこになった。
小鳥に名前をつけてあげようと思った。
でも、情が移りすぎるとよくないからと単純に『トリ』って名前にした。トリって呼んだら名前に反応するみたいに、ぴーと一声鳴いた。
それから僕は毎日何度もトリに会いに行った。
育て方を調べて、餌をあげて、時にはトリを狙う獣からトリを守ったりもした。
トリも次第に僕を覚えてくれたみたいで、僕が近づくとぴぃーぴぃーと甘えるように鳴いてくれるようになった。僕はとてもうれしかったんだ。
日ごとにトリは大きくなって、僕といっしょに遊べるようになって、その日の別れを惜しむように着いてきそうになるのを止める、そんな切なくも楽しい日々が続いた。
トリの羽も立派になって、そろそろ飛べるようになるかもなんて思っていた。
名前になんて関係なく、結局情が移っていた。
そんな日がしばらく続いて、もう、トリをうちで飼ってもいいかなって思い始めた頃。
突然僕の住む島が、二つに割れた。
理由は全くわからない。
小さな島はちょうど半分に割れて、二つの小さな島になって遠く離れていってしまった。
割れたところは僕の家の近くだったから、僕の島と、トリの島は別の島になって、トリは遠くに行ってしまった。
僕はとっても悲しくて、毎日トリのいるはずの島の方を眺めていた。
トリはお腹をすかせていないだろうか。
トリは獣に襲われていないだろうか。
雨で震えていないだろうか。
心配で心配で仕方なかった。
僕は願っていた。いつかトリが立派になって島を越えて飛んできてくれないかと。
最後に見たトリは大きくなっていたから、そろそろ飛べるはずだった。
トリのいる島の方向を見続ける日々が続いた。
今日はトリにあえなかった。
今日もトリにあえない。
今日もトリあえず。
もう、たぶん。トリは……。
僕はトリにはもうあえないんだと思い込もうとした。
きっと、もう大きくなって向こうの島で元気に生きているって思うことにした。
それからかなりの日が経った。
僕もそれなりに大きくなって、家の仕事を手伝ったりするようになって、それでもトリのいる島をみることはやめられなかった。
たまたま時間が空いたから、昔トリのいた森、今は海岸になった場所を訪れてみた。
晴れた青い空をながめて、まぶしくて目を細める。目が慣れたとき、視界の端に何かが見えた。
それは少しずつ大きくなって、なにかが飛んでいるんだってわかった。
そして、その何かは赤と青の綺麗な羽を持った何かで……。
僕は涙でにじんだ視界で大きく手を振った。
その日僕はトリとあえた。
彼方の島の鳥のトリ 季都英司 @kitoeiji
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