トリあえず、おめでとう!

蒼河颯人

トリあえず、お祝い

「トリあえず君に合格を知らせたかったんだ」


 この通知がスマホに入ったわたしは、一足早く春が来たような心地がした。この気持ちをどう表現したら良いだろうか? 言葉で上手く表現出来なかったので、トリあえず、その場で飛び跳ねておいた。それを動画に録画しておいて、相方へのスマホに添付した。大きなスタンプも一緒に添付して送っておく。文明の利器って、こういう時も便利だなぁと思う。


 彼はこれまで仕事をしながら、資格試験勉強を頑張ってきたのだから、合格出来て本当に良かった。血の滲むような努力のたまものだ。めでたい、めでたい。


 朝からずっと連絡を待っていたわたしは、落ち着かなくて買い物にも行けてなかった。試験の結果次第で、お夕飯のメニューが変わってしまうせいもある。下手に色々買うと、無駄遣いになってしまう。お給料日直前だし、どうしても財布の紐がキツくなる──トリあえず日々の生活に必要なものは、お金に変わりない。


 さあさあ! 相方から連絡が来たから、今日のお夕飯のメインは決まった。

 相方の大好物を拵えてあげよう。

 お祝いだから、本当はもっと豪勢にいきたいけど、材料も時間もお金も限界がある。正式なのは、お給料日過ぎてからにしよう。


 冷蔵庫を開けて、内部を確認した。それを見たわたしはうれしくなった。材料は、これで間に合う。買い物に行かなくても大丈夫そうだ。


 まず、リーフレタスを冷水にさらして、あみにあげ、充分に水気をきり、食べやすい大きさに千切った。


 玉ねぎをみじん切りにしたのを、鶏ひき肉、おろししょうが、マヨネーズを入れてよく練り混ぜ、六等分にして、トリあえずの形にした。せっかくだから、大ぶりにしよう。


 それから別の小皿にみりん、しょうゆ、お酒にお砂糖を入れて良く混ぜて、タレは完成。下ごしらえさえしておけば、あとは焼いてタレをからめるだけだ。トリあえずはそれで間に合うだろう。


 メインはトリあえずそのままにしておこう。相方はまだ帰ってこない。これは焼き立てが、一番だ。


 □■□■□


 良い塩梅に焼き上がったトリつくねが、白い湯気をたてて、真っ白の皿の上に横たわっている。いつもより大ぶりで、太っちょなつくねだ。上からかけられたタレがあふれてはこぼれ落ちている、照りも良さそうだ。それを見た相方は、目を細めて口元に大きな弧を描いている。


「今日のコイツは一段と旨そうだ!」

「試験合格おめでとう! お祝いだし、トリあえず、ビールにしようか?」

「そうだね。ありがとう」

 

 二つのグラスがコツンと重なり合った音が、リビング中に響き渡った。


 今日も一日お疲れ様。

 明日からも頑張っていこう──一緒に。

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