離してはいけないよ

 その後、妹はいなくなっていた間のことを、何も覚えていなかった。

 母親たちも周りの大人達も安堵していたし、その時のことは恐ろしい出来事だったけれど、時間とともに、そのうち日常が戻ってきた。

 けれど、私はあの時のことも、あの声も、あの言葉も忘れることはない。

 そして、あの出来事が、夢や気のせいでないことを私は知っていた。

 あの時、家にあった私のお菓子とおもちゃ全部、お土産として妹に買って帰ったお菓子さえも忽然こつぜんと消えてしまっていたのだから。

 私の手に残ったものは、最愛の妹、そして、妹とおそろいのキーホルダー。

 ぎゅっと強く握りしめた。


 それから、私達家族は***様のことを知り、この田舎町から離れることを決意した。

 けれど、それは叶わず、今もこの田舎町で暮らしている。

 なぜなら、声が聞こえた気がしたからだ。

 田舎町の外側から、私たちを呼ぶ声が。

 なぜなら、見えた気がしたからだ。

 田舎町の出口で、私たちを手招く姿が。

 もはや、妹を連れて行ったのが***様だったのか、妹を取り戻してくれたのが***様だったのかわからない。

 そう思ったのは、誰かが、こういった気がしたからだ。


「親子を、兄弟を、夫婦を、家族を、愛し合うものを引き離してはいけないよ」


 私たちは今もこの実り豊かな田舎町で暮らし続けている。



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はなしてはいけないよ うめもも さくら @716sakura87

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