短編106話 数ある伝われ私のおてて
帝王Tsuyamasama
短編106話 数ある伝われ私のおてて
「告白しよう!」
「振られるわけないって!」
「でもっ……」
「でもじゃなくってっ。
「……小学生のとき……じゃなくて、幼稚園のときからだから……」
「長いわっ! 長すぎるわっ!
「さすがに私のことを……そんな、それは……」
「あ~もう何度目だよぉこれっ!」
七月。二学期の期末
しかもはなちゃんからは両手を包み込むように握られ、やっちゃんからは右肩に左手を置かれています。近いよぉ。
二人とは幼稚園のときからの仲良しさん。中学二年生となった今でも、いっぱいおしゃべりしてくれるから、私は毎日楽しく過ごすことができています。
はなちゃんは私と身長が同じくらい。髪は肩に掛からないくらいのところで切りそろえられている。
美術部に入っていて、とても絵が上手。昔はよく、せっせっせーのよいよいよいを速くしていた。
やっちゃんは、私よりも身長が大きい。髪は肩より長いけど、いつもひとつにくくってる。
バスケットボール部に入っていて、運動神経抜群。マンガいっぱい読ませてくれてありがとう。
「だって……」
「あんたたちのじれじれっぷりを、こうも長いこと見せつけられてるこっちの身にもなってほしいね!」
「ええっ……?」
ただの休み時間なので、みんなセーラー服姿。今日は体育がない日。
男の子は学生服だけど、ここは体育館の近くだからか、私たちのことを見ている人は、たぶん周りにはいない。
「夏休み前の今だよ! 告白しよう、美雪ちゃん!」
「……夏休みなら、来年も……」
「受験でしょーが! ま、美雪は頭いいから遊んでても問題ないだろうけどさ!」
「えっと……」
だから近いよぉ。
「夏休み、凌くんと遊びたくないの? 遊びたいよね? 遊びたいよねっ?」
「それは…………」
私は小さくうなずくことしかできなかった。というかうなずいちゃった……。
「大丈夫だよ! 凌くんだって美雪ちゃんのこと、好きなはずだよ!」
(す、すき…………)
「そんな、どうして……?」
「見りゃわかるだろんなもんっ!」
こ、怖いよぉ。あと右肩痛いです。
「こうやって手をつなぎたいよね!?」
(て、手をつなぐ……)
……どうなんだろう。やっぱり、すき、だから……そう、なのかな……。
「毎日遊びたいだろ?!」
それは……どちらかというと、うん……。
「こんなに気持ちを温めてきたんだもんっ。全部ぶつけたら、付き合わない男の子なんてこの世界にいないよ! 神の名前は美雪ちゃんなんだよ!? 私ただの花恵だしっ」
「はなちゃんも、かわいい名」
「女神の告白を断るやつなんて、この世界にいるわけないな! あたし康子だよ康子。しかも漢字書いても一発で読んでくれない人割といるしっ」
「健康で、すくすく育っていると思いま」
「美雪ちゃんっ!」
「美雪!!」
(いつも私のことを励ましてくれるはなちゃんとやっちゃん。私からは、お返しできていないと思うけど……)
前から、その、言ったら? って、言ってくれてはいたけど……今日のは今まででいちばんの迫力かも。それにお顔近いよぉ。
(私も……今よりいっぱい青城くんとおしゃべりしたいし、遊びたい。お、お付き合いということは、あんまりわかっていないかもしれないけど……でも……)
この気持ち。すき……なのは、間違いないと、思う。
だから…………
「……でもやっぱり、その、言う勇気なんてっ……」
「だーーーもうーっ! 花恵! こうなりゃ青城に美雪のこと好きって言わせるよ!」
「やっぱり告白は男の子からだよね! 美雪ちゃん、今日凌くんと一緒に帰るとき、必ずこうやって手をつなぐこと! いいよね!?」
「ええっ? 急にそんなことしたら、嫌われそう」
「嫌うわけないでしょーがぁー! 自分の女神の美しさを鏡で見てからセリフ吐け!」
ちょっと、なにを言っているのか、よくわからないです……けど、はなちゃんとやっちゃん。こんなにも、私のためを思って言ってくれているのに、本当に私は、二人にはなにも返せていないと思う。
(お返ししなきゃっていう気持ちも、青城くんへの気持ち、も……)
だから…………だから、だから私はっ……。
「……ありがとう、はなちゃん、やっちゃん。その、言う勇気はまだ持てないかもしれないけど……でも、頑張って、その……えっと……」
やっぱり近いよぉ。
「……今日、手を、つないで……みたい、な」
わあはなちゃんすっごい笑顔! え、なんでやっちゃん泣いているの?
「やっちゃん、
「そのハンカチは、自分のうれし涙のときまで取っときな」
やっぱりやっちゃん、かっこいいなぁ。
「美雪ちゃん! 頑張ろう! 私凌くんに、美雪ちゃんが今日凌くんと一緒に帰りたいって言っておくから!」
私はいつものようにここで、でもとか、えっととか、なにか言ってしまいそうになったけど……
「……うん……」
小さくうなずくと、はなちゃん飛び跳ねてる。やっちゃん肩痛いよ。
六時間目の授業が終わり、帰りの会も終わった。
あとは部活と……
(下校……)
お遊戯会で手をつないだときからかな……ちょっと気になり始めて。
青城くんからたくさんおしゃべりしてくれるし、運動会でハイタッチしたりとか、突然教室での腕相撲大会? に巻き込まれちゃったり、いつも明るくて、私のことを楽しませてくれようとしているのが、伝わって……。
(私からしてあげられることって、何だろう……)
私の今の席は教室の後ろの方。青城くんの席は左前の方。ちょっとくらいなら、見ても……たぶん大丈夫。
(あっ)
はなちゃんとやっちゃんが、そろって……ウインク? してる。
(……頑張りなさい、ということ……なのかな)
やっぱり私は、小さくうなずくことしかできなかった。
そんなはなちゃんやっちゃんが教室を出ていく姿を眺めていたら……
(来ましたっ)
学校指定の紺色
身長はやっちゃんと同じくらいかな。茶華道部だけど運動神経がよくて、マラソン大会で上位によく入っている。スキーとボウリングも上手っていううわさもあるとかないとか。
趣味は将棋と麻雀って聞いたことがある。こっそり私も動かし方を覚えたのは秘密。
「やあ、神名っ」
お名前を呼ばれました。お店で順番待ちの名前を書くと、よく『かみなさん』と呼ばれます。かんなです。
(とりあえず……)
「こんにちは」
よそよそしかったかなぁ。でもいつもなんて返せばいいのか、考えちゃう。
そんなもにゃもにゃした気持ちも、青城くんの明るい笑顔で吹き飛んじゃう。いつもこれ。
「今日、一緒に帰ってくれるって、掃除のときに田垣から聞いた! 正門で待ち合わせとかでいいかっ?」
(やっぱり言ったんだ)
だったら……緊張するけど、断っちゃいけません。
「うん」
言えた。言えました。
「うし!
右手をちょっと上げて、そのまま教室の扉へと向かう青城くん。なんでこっち向いているのに、人や机をよけて進めるんだろう。
あ、私もちょっと……右手を上げておきます。
(いつも青城くん、元気を分けてくれる)
……これもありがとうって、言いたいな。
部活が終わって、私もできるだけ早くお片づけをしなきゃ。
(青城くんの速攻って、どのくらい速いのかな……)
お片づけを終えて、廊下は走っちゃいけませんを守らなきゃいけないけど、今日だけ早歩きを許してください先生。青城くんのことだから、きっとすごく早いはず。
「お、神名っ」
げた箱の近くまで来たところで、声をした方へ振り返ると、青城くんがいらっしゃいました。
「神名も早いな!」
(青城くんを待たせては……いけませんから)
あまりに急いで片付けていたから、「なんか用事あるの?」とまで言われちゃうほど、頑張った。
「うん」
青城くんが前を通って、げた箱から黒い運動靴を取り出し……あ、私も出さなきゃ。
「正門って言ってたのにな」
この笑顔に、私……。
「……うん」
急いで片付けたから、まだ帰っていく学生はまばら。
そんな中、私と青城くんは、並んで正門から出ました。
正門を出るくらいまでは、男の子友達と遊んだ内容のことを話してくれました。いつか私とも遊んでくれるのかな。
(……お休みの日に、会いたいなぁ)
やっぱりはなちゃんやっちゃんには、かないません。
「それでー……俺になにか用事でもあったとか? あー別に用事なくてもいいんだけどな!」
青城くんと一緒に帰ることは、初めてというわけじゃないけど、たまたま帰り際に会ったときとかにある。一ヶ月に一回あるかないか……一ヶ月に一回もないかも。
思い返せば、私からはあんまりおしゃべりできていなかったかも。
今も、どんなことをどういうようにおしゃべりしたらいいのか、よく思いつかないけど……。
(……でも……でも、でもっ)
「え、おわっ、な、なんだなんだかんなぁ!」
私はありったけの勇気を振り絞って、左手で青城くんの右手と……握りましたっ!
や、やっぱり突然握っちゃったから、青城くんあたふたしているっ。
「は、離さないでっ、ほしい……」
(ああぁ、私なに言っちゃってるのぉ)
お遊戯会のときとか、手が離れた瞬間って、なんだかちょっとさみしい気持ちがあって……。
「はいぃ!? いや、その、なんだ、むしろこっちからもよろしくっていうかっ。じゃなくってどしたかんなぁ!」
「……くすっ」
ああ、だめっ。青城くんの表情と大きな動き、笑っちゃ……いけない気がするけど我慢できません。
(あっ)
その動きが落ち着いてきた青城くんは、改めて手を握ってきてくれた。
(……やっぱり。私。これ……)
「急にどうしたんだ神名っ。なんか笑ってるし。今日なんかいいことでもあったのか?」
(今まさにいいことですぅ)
思わず右ほっぺたを右手で押さえて、ちょっと青城くん見ることができないけど……
「……もうすぐ夏休み、ですね」
なぜかですねになっちゃった。
「あ? あ、ああ。それがどうかしたのか? 海外旅行にでも行くとか?」
青城くんと海外旅行……青城くんなら、トラブルも全部解決してくれそう。でも海外旅行に行く予定はないので、首を横に振っておきます。
(ここでもう一回……勇気をっ)
「……青城くんは。夏休み、お友達とたくさん……遊ぶの?」
左手あったかい。
「あー……んー、まぁ? 夏休みだしな…………うえっ!! ひょ、ひょっとして神名!」
顔見てなくても、なんだか表情がわかるようになってきた気がする。
「お、俺と遊んでくれるのか!」
くれる? 私がお願いしている立場なはず、だよね?
「青城くんと、いっぱい……遊びたい、です」
またですになっちゃった。ちょっと恥ずかしいけど、青城くんのお顔をちらっ。
(ああっ)
私の左手を握る青城くんの右手に力が加わっています。やっちゃんよりかは痛くない。
「よっしゃぁあーーー!! 遊ぼう初日からいーや明日いや今日から!!」
「きょ、今日?」
あの、まだ夏休みなっていないです。
「俺ん
左手が鋭く縦にされていて、その手よりも頭を下げている青城くん。
今日はすっごく突然だけど、
(……お母さんごめんなさい。ちょっとだけ帰りが遅くなる、美雪は悪い子です)
「……うんっ」
「うぉーーーーー!!」
あ、あの、青城くん。ご近所さんにご迷惑が……あと左手握るの強いよぉ。
短編106話 数ある伝われ私のおてて 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho
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