【KAC20245】お題:はなさないでpart2

かごのぼっち

はなさないで

センシティブな内容も含まれます。

苦手な方はご遠慮ください。


──────────────

 僕は恋愛は自由だと思っている。


 だって、自由ではない恋愛はしんどいだろう?


 彼女は言う。


「お願い、私たちが付き合っていることは話さないでね?」


 僕はどちらでも良かったので。


「わかった」


 と言った。


 僕たちは就職を境に、会社が別々なので、お互いに違う時間を過ごす様になった。


 週末。


 仕事は夜が遅く、寝る時間が貴重なため、会えるのは週末だけだった。


 週末が待ち遠しかった。


 彼女に会える。


 それがとても嬉しかった。


 ある日、彼女は言った。


「会社の人たちと遊びに行って、帰りに呑んで帰るから来週は会えない」


「わかった。 楽しんで来てね」


「うん、ごめんね?」


「いいよ。 コミュニケーション、大事だからね」


「うん」


 たまにそんな日が出来て、週末会える時間がいくつか無くなった。


 正直なところ寂しかったけど、何も言わなかった。


 ある日、彼女は言った。


「来週約束してたけど、会社の人に食事に誘われたの、行ったら……ダメ?」


「それは、男性と二人でってこと?」


「ううん、もう一人女性を入れて三人。 会社の友達でよく話する人。 その男性ひとも良い人だから安心して欲しいんだ」


「……わかった。 気をつけてね?」


「うん。 ごめんね? また今度デートしよ?」


「うん……」


 何となく嫌な予感がした。


 彼女を疑う訳じゃない。


 僕は男性が信じられないからだ。


 でも、彼女は言う。


「男女間の友情って、あると思うんだよ。 だって、貴方と元々友達から始まったじゃない?」


「うん。 僕なら君となら付き合ってなくても友達でいることは出来るよ。 でも、他の男性は無理じゃないかな?」


「どうして?」


「僕は君と言う人間と友達になったし、今は交際しているよね?」


「うん」


「でも、普通の男性は人間の君ではなく、女性の君を見ているからだよ」


「そんなのわかんないよ」


「そっか」


「うん」


 次の日、平日なのに彼女から連絡があって、僕たちは公園で合うことになった。


 彼女は泣いていた。


 顔もぐちゃぐちゃで、一日中泣いていたようだ。


 それを見ただけで、僕も泣きたくなった。


 「ごめんなさい。 ごめんなさい…」


 何度も謝ってくる。 胸の奥が泡立つ。


「どうしたの?」


「昨日、ホテルのレストランに行ったら、もう一人の女性が急用で来れなくなったからって、会社の男友達と二人で食事することになったの…」


「うん」


「私、お酒弱いから乾杯だけ呑むことにしたんだよ」


「うん」


「食事を終えて、私、帰るって言ったんだけど、大事な相談があるから、あと少しだけお話しようって言われて…」


「うん」


「そんな事を言われたら、もう少しだけってなるでしょう?」


「……」


「それで、ラウンジの方に移動して、何も頼まない訳にもいかないから、カクテルを注文して…」


「うん」


「お話は?って聞いたら、私の事を以前から好きだったって告白されて…」


「……」


「もう一人の女友達にも協力してもらって、この食事をセッティングしてもらったらしいの…」


「……」


「でも、そこまで言われて、隠す必要ないから、私言ったんだよ、彼氏がいるからごめんなさいって!」


「うん」


「そしたら、それでも構わないから、自分のことも見てくれないかって…言われて…」


「……」


「私、それでも彼氏を裏切る気ないし、分かれる気もないからって言ったの!」


「うん」


「そしたら……そしたら……」


「ん…」


「無理やりキスされて!……キスされて……抱きつかれて…私…」


「……」


「嫌だって言って振りほどいて逃げようとしたら…めまいがして……」


「……」


「酔いが回ってたみたいで…そこから記憶がなくて…」


「……」


「今朝起きたら……そのホテルの一室で……私……」


「……」


「私……裸にされてたの!! ごめんなさい!! ごめんなさい!! 記憶がなくて分からないけど……たぶん……ごめんなさい……」


「……」


「……私の事嫌いになった?」


「……僕は……」


「……うん」


「……僕は……」


「うん」


「君と言う人間が好きになったんだ。 嫌いになんてなるわけ無いだろう?」


「う……うう……うわあああああぁぁ……ごめんね! ごめんね! 私、酷いことしたから、フラレたって仕方ないのに……」


「酷いことなんてしてないだろ? 酷いこと、されたんだろう?」


「うん。 でも、でも!!」


「だったら、悪いのは向こうで、君は悪くない」


「でも! 私が男女間の友情とか信じて無ければ!!」


「信じても良いんだよ」


「だって、無かったじゃない!?」


「あるじゃないか。 ここにちゃんと、あるじゃないか」


「う……もう、恋人じゃないってこと?」


 僕はそっと彼女を抱き寄せた。 彼女の頭に顎を乗せて。


 僕の泣きそうな顔が見られないようにした。


「決まっているだろう?」


「じゃあ、私たち……」


「君は、僕の大切な親友で、大好きな彼女だ」


「……私の事、嫌いじゃない?」


「嫌いじゃない」


「軽蔑したりしない?」


「しない」


「じゃあ」


「うん」


「私の事」


「うん」


「好き?」


「好きだよ」


「はなさない?」


「はなさない」


「はなさないでね?」


「はなさない」


「私も」


「うん」


「絶対に」


「うん」


「あなたをはなさない!」


「はなさないでね?」


「うん!」


 彼女は大粒の涙をぼろぼろとこぼしながら、少し笑って。


 目を閉じた。


 僕の心はぼろぼろで、ほんの少しも笑えそうになかったけど、彼女の為に、少し笑って。


 彼女の額にキスをした。


「いじわる」


「ひどくない?」


「じゃあ」


「ん?」


「目を瞑って!」


「……」


 僕は黙って目を閉じた。


 彼女の手が胸に当たり、肩を撫でて、首筋にキスをした。


 肩から背中に回り、身体が密着して、彼女のキスが少しずつ口元に近付く。


 背中に回された手が、背筋を通って、僕の頭を後ろから引き寄せて、彼女は思い切りよく、力強く、烈しく、そして終わることのない愛撫のように、


 キスをした。


 その間も彼女は涙を流し、その隙間から嗚咽が漏れ出ても、僕にキスを求めた。


 僕はそのままの彼女を、全て丸ごと愛している。


 友達だとか、恋人だとか、夫婦だとか、関係ない。


 どんなかたちだろうと、僕の想いはひとつだ。


 変わらない。


 例え二人が別れて、別々の人生を歩む事になったとしても、僕の愛した人はひとり、君だけなのだから。


 だから


「そろそろ苦しいから離れような?」


「だめ!」

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